2022/07/10

根付 其ノ佰陸拾陸

『 魔ガ刺ス』
素材:鹿角、黒水牛角



それでは早速至水の2022年夏のグループ展出展作品公開始めます
テキスト長いんで前置き短く

行ってみよー





至水妄想奇譚

「金糸雀ハ鳴キ止マズ」

人類の発現時より大気中に休眠状態で浮遊する「魔」と呼ばれる存在は
無味無臭の不可視体故に通常の人間には感知出来ず
仮に接触してしまったならば
どれだけ善良な人間であっても心を邪気に支配され
須らく悪行を成す事となる
この現象は「魔が刺す」と形容され
濃淡はあるにせよ一般には不問霊障と位置付けられているが
魔が信心深く得の高い清らかな人間と接触した場合
瞬時に休眠を解き受肉を目的とした能動的接触を試みる
これは最上位霊障に位置付けられた特務僧兵対応事案となる

1783.08.13 14:06

日ノ本に於ける霊象の全てを監視する
その責務を全うするべく
倫辠宗京都大本山冥深寺が創設した遠隔霊象感知衆「天眼」

所属する最高位霊象走査班「五猿」は
蝦夷地松前藩内の極所に爆発的な霊圧増大事象を観測

遠隔走査ではあり得ない膨大な霊波流入に耐えきれず
五猿の構成員「不視」「不聴」「不嗅」「不触」の4名が殉職

残る1名「不喋」もまた重度の精神侵蝕により意識混濁
全身不随に至るも
限界発動された自動書記により判明した霊象特異点の情報は
すぐさま松前藩領地対策寺院である鳳道寺へ念話共有され
即時対応を求められた統括高僧 宝誌和尚は
特務規定により20名から成る斥候班を編制し現地へ向かわせた

1783.08.14 14:59

霊象の発現地とされるその村は人の気配無く
夏のうだるような暑さのなか重く淀んだ邪気に満ちていた

斥候班のリーダーに任命された特務僧兵主任僧長「長我部」は
五猿が吸い上げた現地残留思念の解析情報を脳内で繰り返し反芻していた

一昨日、村外れの小さな集落に有る古寺で執り行われた村の長の葬儀終盤
和尚が説法を始めたのを皮切りに
参加した村人達が一斉に殺し合いを始めたらしい

所謂「魔が刺す」というやつだ

しかし余程邪な精神状態でない限り
殺人欲求の発露に至る事など無いものだが

しかも50人もの人間が

同時に?…

霊障の連鎖が爆発的な霊象として五猿に感知されたのだろうか
全ては特異点に辿り着けば明らかになる筈だ

村に侵入した斥候班はツーマンセルの10チームに別れ
其々が霊圧の低い地点を探りつつ
浄化ブイを設置しながら特異点である古寺へ通じるルートを作成する

これが特に霊的感受性の高い僧兵ばかりを選出し編制された
斥候班「金糸雀」の責務であり
十数日後には到着するであろう大本山の霊象封殺班本体が
可能な限り精神侵食を免れ特異点に到達するための捨て駒なのだ

1783.08.14 18:00

徳の高い僧兵は恰好の受肉素材である

大気中に溢れる夥しい数の魔による絶え間ない精神侵蝕に抗い
息も絶え絶えな長我部は
特異点まであと10m足らずの地点まで辿り着くも
自分とバディを組ませた最年少の特務僧兵「禊谷」以外の
斥候班メンバーの気配を一時程前から全く感知出来ておらず
この状況
皆既に魔の贄と成り果てたのだろうと漸く理解出来た

不意に芽生えた恐怖に信心が揺らぎ
自らの精神に綻びを感じた長我部は

「僧兵行動規定第一条第一項…解るな?」

と禊谷に問い介錯を委ねた

「魔に刺されし者は受肉に至る間に速やかに斬首すべし」

事も無く諳んじる禊谷を凝視する長我部は
今更ながらその違和感に気付いた

禊谷から感知出来る精神の波は穏やかに凪ぎ
息一つ乱していない…

「禊谷お前」

次の瞬間
致命的な魔の精神侵蝕を許した長我部の額が正中に割れ
受肉した魔が歓喜の産声を上げ…ると同時に
喉元に触れた禊谷の独鈷杵が
長我部の側を脱ぎきらぬままの魔の首を斬り落とした

「てめぇっ!これっぽっちの信心も無ぇただの人間がっ!」
「なんで法具をっ!なんで俺の首掻っ切るっ!」

禊谷は喚き散らす崩壊間際の魔の生首を一瞥し
慣れた手つきで独鈷杵に付着した血を払いながら

「あぁ、これね、僕は元々ここの宗派の堂衆じゃないんだ」
「色々あってさ…」

と独り言のように答えると
崩れ出した魔の耳元に顔を近付け小声で囁いた

「あとさ、僕の事感知出来なかったでしょう?」

確かに受肉を狙い精神侵食を仕掛けるまで
魔の知覚野には長我部しか捕捉出来ていなかった

「君等は人間の信心にしか食指が動かないんだよね?」
「だって僕、神も仏も信じちゃいないんだもの、信心なんてないんだよ」

「だから徳の高い僧兵に混じってるとさ…」

「見えないんだよね?僕の事」

受肉体消滅の断末魔を聞きながら
二ヤリと背を向けると視線の先には本堂からどろどろと這い出す腐肉塊

それは爆発的な霊障の連鎖を引き起こさせた元凶
村の住職を贄に受肉した禍々しく凶大な魔の姿である

「さてと、こんなのサクッと屠っちゃって」
「僕を牢から出してくれた宝誌和尚のためにいっぱい功徳を積まなきゃね」

数々の破戒を重ね深権衆大本山を破門のうえ
魑魅魍魎が跋扈する和人未踏の蝦夷地故に
松前藩が管理し続けざるを得ない鬼岩牢へ幽閉される身となった過去を持つ
一級の霊象封殺僧兵
「禊谷戒真」
精神侵蝕皆無である今正に魔殺神と化していた

1783.08.14 18:20

日ノ本に於ける霊象の全てを監視する責務を継続すべく
壊滅した五猿から急遽遠隔霊象感知任務を引き継ぐ事となった
霊象走査僧兵「千里眼」は着任早々
蝦夷地で発現した霊象特異点の消失を観測した…



終劇



※作中に記された宗派、寺社名、地名は実在するものと一切関わりは無く
史実もまた異相な平行世界の物語です






長い!

長いねー長文まいったね

はい

という事で

これだけ書いたストーリーで根付化するのは
魔殺神と化した主人公一級の霊象封殺僧兵「禊谷戒真」
ではなく
最悪な霊象を引き起こした大ボス魔
でもなく

僧兵行動規定第一条第一項
「魔に刺されし者は受肉に至る間に速やかに斬首すべし」
宝誌和尚立像をモチーフに
「長我部を贄に受肉した魔の斬り落とされた生首」
として根付化します

名も無き物の怪

モブキャラです





鹿角で生首





六面図





やはり「煽ると大体カッコ良くなる理論」は間違いない





瞳孔開ききった長我部の側
悲し気





禊谷を感知出来なかった事に気付きハッとする魔





僧兵な長我部のスキンヘッヅ





紐穴大の奥に銘パーツを嵌め
これで大きな髄孔を埋めてます





根付紐の結玉はいつもの通り
すっぽり呑み込まれる仕様





サイズはこんな感じ





根付袋は「勿怪の幸い」に合わせて妖怪札柄





主人公に瞬殺される名も無きモブキャラ
根付「魔ガ刺ス」完成です

今回とにかく大きく顔面彫りたいなってとこから始まって
彫りながら色々設定積み上がって行く流れなんだけど
根付作品には直接関係ない
中二臭溢れて滾りまくる設定とかいっぱいあって

五猿メンバーや千里眼のバックグラウンドとか
禊谷が深権衆系の寺に拾われた幼少期の諸々とか
宝誌和尚の意図とか
鬼岩牢とは何かとかとか

長すぎるので端折りますけど
物語を妄想するのはやはり楽しい



さて今回の「勿怪の幸い」第三集は
1作家につき根付1点と提げ1点
という出展枠制限がありまして

次はもう一つの出展作
紅いアイツの提げをブログ投稿です




0 件のコメント: