2022/09/30

根付 其ノ佰漆拾壱

『 一畳敷皺隠 』
素材:鹿角、真鍮、黒檀



2017年3月に製作した根付
思い返すと陰嚢幻術習得に青春を捧げた狸達の熱い熱い物語でしたね
いやちょと違うよーな…

そんな陰嚢奥義シリーズ第二弾
やっちゃいます…





至水妄想奇譚

「ムヨウモノ」

日本全国に生息する野生の狸
中でも里山を根城とし人間と接する事の多い個体群では
己の錬り上げられた陰嚢の伸縮を用いた幻術により
幻覚に堕ち理性を失い狼狽する人間を鑑賞する事は至上の喜びらしく
資質のある狸達は群立陰嚢幻術教練校へ入校し
数百年かけメソッド化された鍛錬法により四十八の基本幻術を学びます

今日は初級クラスの生徒が初めての習熟試験に挑む模様

試験術目である陰嚢奥義第一手「一畳敷皺隠」は
一畳敷にまで錬り上げた陰嚢を纏い
対象者に自然物と錯視させるという変化型幻術で
周囲の景色に溶け込み難を逃れる等
緊急回避に重宝される初級陰嚢幻術です

果たして今年のルーキー達の実力や如何に…



大玉川試験官(オオタマガワ)
「はい、全員揃いましたね
 本日の試験術目「一畳敷皺隠」は
 陰嚢幻術基本のキである陰嚢奥義の第一手です
 君達にとって初めての習熟試験な訳ですが
 まぁ、心配する事はないでしょう
 群立陰嚢幻術教練校設立以来四百年
 不合格者は一人も出ていない術目なのですから」

咫奴鬼田教官(タヌキダ)
「変化完了まで術式起動葉のヘッドコントロールに集中し
 くれぐれも逆幻覚に陥る事のないように」

大玉川試験官
「陰嚢錬り上げ限界時間の合格ラインは三秒です
 超過したら即落第ですからね、気を引き締めて」

「それではよぉーい」

「はじめーっ」



号令と共に次々と変化を完了させる狸のルーキー達(通称タヌーキー)
木肌形や芝生形、岩形に丸太形、等々々…
術者の数だけ個性豊かな変化バリエーションが見られます

受験番号16番の生徒は水溜形の変化ですがこれは素晴らしい
周囲の気流に合わせ水面の揺らぎまでシンクロさせる手の込みようです



大玉川試験官
「今年のタヌーキー達はなかなか優秀ですね」

咫奴鬼田教官
「ん?あの大石形は… 24番か?」

大玉川試験官
「あー、大石の下の方、テクスチャのオーバーレイが出来ていませんね
 陰嚢の皺見えちゃってますよ」

咫奴鬼田教官
「まさか大石の上にいる蜥蜴が咥えてるアレ… 術式起動葉じゃないか…」

大玉川試験官
「変化完了前に蜥蜴に起動葉を掠め取られての逆幻覚堕ちかぁ
 確か五年前にも第三手の習熟試験でやらかした生徒いましたけど
 そうそう見られるものではない凡ミス中の凡ミスですよ
 いやぁ逆にレアだなぁ」

咫奴鬼田教官
「あんの馬鹿垂れが…」

大玉川試験官
「再試験は一週間後に予定入れておきますので
 咫奴鬼田教官、補習の方お願いしますね(笑)」



群立陰嚢幻術教練校四百年の歴史に於いて
二人目にして最後の術式起動葉操作不備による不合格者となった24番

名は 太又多磨太郎(タマタ タマタロウ)

彼こそが
最終術目である陰嚢奥義第四十八手「四十八畳敷奈落蒸沼皺地獄」を
術式起動葉無しで完遂させ
終に術式起動葉を使用せずともあらゆる陰嚢幻術の発動を可能にする
高速陰嚢錬成術を編み出し体得した唯一の狸として
自ら「無葉者」の称号を冠し全ての術者から崇め奉られる存在と成った
陰嚢幻術界に語り継がれる伝説の一狸なのだ








三畳敷皺入道の時と比べると
昨今の妄想奇譚のトゥーマッチな長さに恐怖を隠しきれない
そんなオーディエンスの皆様も居られる事と思われますが

もうそういうスタイルなのでしょーがないんです

彫りますね♪





鹿角です





六面図





大石に蜥蜴図の根付と思いきや

狸が大石に化けてる根付でしたというギミック
因みに玉袋の奥から伸びる草は
尾を変化させたものという設定です





「ぐぬ゛っ…」
がっちりー固まるタマタロウー♪
「うぬ゛ぬ゛ぬ゛ぇあっぬ゛っ」
逆幻~術中タマタロウー♪
「んぐっ んがっ んぬ゛ぬ゛ぬ゛ぬ゛ぬ゛ぉっふぁふぇ」
でーも伝説のー無~葉者だよー♪
(とっとこの曲に合わせて)





陰嚢幻術を発動させるのに必要不可欠な術式起動葉
(頭にのせとく葉っぱ)
を掠め取ってしまったヤンチャな蜥蜴をぐるりと御覧あれ
前回彫った「ぬりかべ」の時の足元に彫った犬のように
どうやら小さい何かを添えるブームが来ていた模様
蜥蜴の目は真鍮の象嵌
画像の中心にある粒が目ん玉です(途中一つ紛失して作り直す)
横に写ってる0.3mmのラウンドバーもへたってるヤツなので
実質象嵌パーツの直径は0.3㎜弱で目が死ぬ





紐穴は水平二連でこう





根付袋は今も色々模索中
シンプルべっちんで最終形に到達しつつある手ごたえあり





サイズはこんな感じ
今回はちょっと
蜥蜴の分ほんのちょっと厚め





其は石の根付になかりけり
はや玉袋の根付にてぞ有りける
根付「一畳敷皺隠」完成です

ここ暫く続いていた物の怪ものとは違うヤツを彫るのが結構新鮮で
陰嚢奥義シリーズも続けて彫って行きたいなと
改めて思いました

新たなるフロンティアを求め
津軽海峡泳いで渡り蝦夷地へやって来た一匹の本土狸と
北の大地を恐怖で支配する忌尊狐(キタキツネ)との抗争を描く
大蝦夷狐狸狐狸合戦ポンポコとか
いやポンポコはダメだポンポコは削除しますけど
妄想膨らみますね



そして次はまた物の怪を彫るのでした
お楽しみに♪



2022/09/21

根付 其ノ佰参拾弐

『 ぬりかべ 』
素材:鹿角、黒水牛角



至水が便宜的に言うところのブリガムヤング版 ぬりかべ を
2019年に根付化したのがこの作品で
製作番号が前後しますが
先に投稿した根付「ぬりかべ」の後日譚的お話になります

ブリガムヤング版云々については後ほど触れますが
先ずは現代を逞しくのんびりと生き抜く ぬりかべ のお話を





至水妄想奇譚

「アーバンジャンゴーサヴァイヴァー」

こんにちは ぬりかべ です

その昔
妖界隈隋一の白肌の持ち主として知られておりました私の
この白肌のおかげでしょうか
人間の目には正に白壁造りの土蔵としか認識されず
ただ其処にいるだけで容易に人目から姿を眩ませられるので
目の前を行き交う人間を眺めては
日がな一日のんびりと過ごしていたものです

時は経ち
コンクリだらけの街並みに白壁の所在は終ぞ消え
私は新たな生き残る術を会得しなければならなくなりました

自慢の白肌を
アーバンスタイルにベストマッチしたテクスチャに
トランスフィギュレィションさせるミミックリー…
そう…「都市擬態」です

これで如何なる現代都市に於いても
快適なステルスライフを楽しむ事が可能となりました

うーん
今日の気分は

そうだなぁ…

ブロック塀かな…

暖かな陽気にゆったりと誰にも気付かれず
平和な一日を過ごすとします

あ…

隣の塀伝いに歩いてきた猫が肩で

昼寝を…








そんな現代 ぬりかべ を根付化しますね





珍しく彫り途中の画像有
鹿角ですね





六面図





「化物之繪」に描かれている元絵のぬりかべとは
大分違って至水アレンジしちゃってます
イメージは「白象」
白くないけど





ブロック塀にトランスフォーム中で
四角く四角くを意識したのだけれど
やはり角を立たせると当たりが強くなるので
結構丸めたつもりだけどそれでも掌に角を感じる仕上りに
角張らせたい丸くしたいのせめぎ合いです





透かしブロックのパターンは「みやま(青海波)」
至水家の近所にもありました良く見た記憶があるけれど
最近ではブロック塀自体めっきり見なくなったような気が…
ぬりかべ様…
アーヴァンとはちと違うのでは?





肩に猫が…
寝たー♪





身の丈三間強の ぬりかべ様を見上げる
なかなかに畏怖





底面の紐穴
結玉すっぽり収まるやつです
そしてお口から根付紐アウト
装着するとブロック塀の根付としか認識出来ない仕様です
ステルスライフ♪





サイズはこんな感じ四角い





アーバンなジャングルをサヴァイヴせよ
根付「ぬりかべ」完成です

2007年
アメリカのブリガムヤング大学附属ハルド・B・リー図書館
L・トム・ペリー特別文庫所蔵の「化物之繪」のおかげで
「化物づくし絵巻」に描かれていた名前も明記されていない一妖怪が
めでたく「ぬりかべ」であると同定され話題となり

2011年には安剛さんが根付化していたりする
この「化物之繪」に描かれている
至水言う所の「ブリガムヤング版 ぬりかべ」は
水木しげる先生が描かれた ぬりかべ とはまた違う姿の
これまた大層恰好よろしい ぬりかべ で

至水もいつか彫りたいなと思いながらの十年余り
やっと根付化出来た ぬりかべ なのでした

ありがたい事にブリガムヤング大学は
ぬりかべ は勿論「化物之繪」全編をウェブで公開してくれているので
ここです↓是非観に行ってください

最高だなぁ





根付 其ノ佰漆拾

『 ぬりかべ 』
素材:鹿角、黒水牛角



ブログには未投稿ですが
ブリガムヤング版「ぬりかべ」の根付を2019年に彫っていて

今回はその前日譚的なお話で
再度 ぬりかべ を根付化します
ぬりかべ 大好きよ





至水妄想奇譚

「スルベカラズ」

白肌と言えば右に出る者無しと
誉れ高き妖界隈随一の白肌の持ち主である塗壁は
身の丈三間は優に超える体躯故に
のべつ幕無し人間から獣から現世に生きるあらゆる他者から
日々向けられる好奇の目にほとほと嫌気が差していた

人の世の元号で言うところの宝永か
伯耆国の倉吉を訪れた塗壁は
白壁の土蔵が建ち並ぶ街道を歩いていると
いつもとは違う妙な感覚
周囲からの嫌な視線を全く感じない事に気付き戸惑っていた

道道すれ違う人間から犬猫鶏に至るまで
自分の存在に全く気付いていない
いや、気付けないのではないか

どうやらこの白壁が続く景色に溶け込む巨漢の白肌は
何をするでも無く他者の目から逃れられる隠れ蓑となるようだ

塗壁はこの地を終の住処と決めた

ある朝塗壁は足元の白肌に広がる嫌な染みを見つけた
夜な夜な泥酔した人間が壁に向かい立小便をするのを見かけはしたが
とうとう自慢の白肌までも汚されるとは…
妖である自分に近寄る者など誰一人居なかった頃
此処倉吉に来る以前には考えもしなかった事だ

こんな屈辱が続いては堪らぬ塗壁は
昔他所の宿場町で目にした土壁に描かれていた立小便除けの印を思い出した

早速白肌の大きな腹の真ん中に赤い鳥居の形を描き込むと
鳥居に小便引っ掛けるなんて罰当たりな事は出来ないって寸法か
良く考えたものだと悦に入る塗壁の腹の下を通りすがる犬が一匹
不意に立ち止まると片足を上げた

足元にちろちろと拡がる生暖かい感触に
嗚呼…獣には罰もへったくれも無いものよ
と、諦めが滲む遠い目で
立ち去る犬と街行く者達を眺めながら
今日も誰からの視線も気にする事のない
塗壁の穏やかな一日が始まるのであった








望むもの手に入れた刹那新たなる望まぬもの現れり
人生はそんな塗壁の繰り返し
皆様いかがお過ごしでしょう

いやトータルでね
幸せの分量が多かったらそりゃ全然オッケーですて塗壁も言ってた
確かね

そんなお話かな…

うん

じゃ

根付化するね





六面図





この"たゆんたゆん"な肉垂たくし上げ
至水の大好物





目は黒水牛角の象嵌にしたので
黒い牙は酢酸鉄反応(所謂お歯黒の原理)で違う黒感に





いぬーっ!こらーっ!





神をも畏れぬ最強の存在
INU





紐穴は最近至水にブーム到来中の平行二連
サイズの小さい根付には無理なく相性が良い紐穴
こんな感じで
結玉を提物側で処理しないといけないのがアレかなと思うものの
そこは工夫次第なので根付に併せた提物も考えたい
(実はこの ぬりかべ に併せる提物案はある)





根付袋は毎度色々試行錯誤中
今回はシンプルべっちん





サイズはこんな感じの小さいやつ





犬の耳に念仏か…
根付「ぬりかべ」完成です

続けてブログには未投稿の過去作
2019年に根付化した ぬりかべ も連投しますね

終の住処に辿り着き三百数十年
消えゆく白壁に見切りをつけ
コンクリートジャングルと化した日本をサヴァイブすべく
新たな生きる術を会得した現代塗壁のお話です

お楽しみに