2023年9月12日火曜日

根付 其ノ佰捌拾肆

『 雷槌 』
素材:鹿角、黒檀



九月も半ばだというのに暑い日が続きますね
記録的な猛暑日の日数に局地的な豪雨災害と
天気予報見る度に命にかかわる気象警報出まくりで
やってられんと悪態つきたいのは人間だけではないのでは
なんて思ったり…





至水妄想奇譚

「落雷ノ理」

「午後三時の天気予報です」
「函館地方気象台より渡島・檜山地方に雷注意報が発表されました」
「落雷に」
「注意してください」

瞬く間にドロドロと渦を巻く暗雲に覆われる函館上空
雲上ライブステージのセッティングは完了し
センターに設置された三巴紋を刻む巨大なドラムセット目掛け
遥か上空よりゆっくりと神鳴様が降臨すると
予報通り
イカヅチドラムソロライブの幕が上がった

ドム ドム ドム ドム ドム ドム ドム ドム
神鳴様が踏みしめるバスドラに
ドム ドム ドム ドム ドム ドム ドム ドム
いつの間に湧いて出たか
ライブに群がるオーディエンスは数万の雷槌小僧ども
ダム ダム ダム ダム ダム ダム ダム ダム
バスドラの打音に呼応するように一斉に足を踏み鳴らす
ダム ダム ダム ダム ダム ダム ダム ダム

ドムチッ ドムチッ ドム ドム ド ドム チッ
ハイハットが鳴る度に
ドムチッ ドムチッ ドムチ ドムチ チチチッ
真黒な雲のなかで静かに雷光がスパークする
ドムチッ ドムチッ ドムチ チチチチチチッ

ドドタンッ ドドタッ ドッドッドッ ド タッタッ
ドラミングの手数が増えるに連れ
ドドタンッ ドドタッ ドッドッドッ ド タッタッ
グルーヴに陶酔するオーディエンス達は
ドドタンッ ドドタッ ドドドドドドッ タッ タッ
其処此処でモッシュを始め
タムタム タッタム タッタッタッ タタム
雲上は混沌たるトランス状態
タムタム タッタム タッ タタム タタタタッ

チチチチチチチチチチチチチ ッタッタ
雷光の明滅は激しさを増し
チチチチチチチチチチチチチ ッタッタ
夥しいイカヅチで飽和する雷雲に
チチチチチチチチチチチチチ ッタッタ
怒気を孕んだドラミングは加速を続け
ドドダンッ ドドダッ ドッドッドッ ドド タタ
遂ぞ怒り心頭に達した神鳴様が
ドドダンッ ドドダッ ドッドッドッ ドド 
憤怒の形相でシャウトする
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
ドッ カッ
"大雨警報っ?"
ドドタドドタドドタドドタドドタドドタドドタドドタ
"洪水警報っ?"
ドドタドドタドドタドドタドドタドドタドドタドドタ
"大雪警報っ?"
ドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコ
"暴風警報っ?"
ドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコドコ
"暴風雪警報ぅおっ?"
ドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカ
"波浪警報ぅおあっ?"
ドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカ
"高潮ぉっ?警っ報ぅ?だあぁっ?"
ドカドカドカドカ ドカカ ドカカカカカカッ
"なぁあぜぇ故ぇにぃいいいっ!!!"
ドカカドカカドカカドカカドカカドカカドカカドカカ
"雷はああああぁっ!!!"
ドカカドカカドカカドカカドカカドカカドカカドカカ
"注意報しかぁあああっ!!!"
ドカカドカカドカカドカカドカカドカカドカカドカカ
"ないんじゃぁあああああっ!!!"
ドカカドカカドカカドカカドカカドカカドカカドカカドカカドカカカッ
"ぬあああああああああああああああっ"

背負いドラムを打ち鳴らし
ジャンプ一閃モッシュの只中にダイブした神鳴様の大足は
クライマックスに狂乱するオーディエンス達を
ゴロゴロとイカヅチで満たされた雷雲のなかへ
踏み潰し 踏み潰し 踏み潰す 阿鼻叫喚の地獄絵図

雷雲のなかで雷に塗れた雷槌小僧どもは
勢い雲底を突き破り
次々と地上目掛け落雷した

ピカドドーンッ
ゴロピカドドーン
ゴロゴロゴロピカシャーンドドーンッ
バリバリバリバリバリドドドーンッ
ゴロピカシャーンッドドドドドーンッ
ゴロピカバリバリバリドーンッ
ドドドドドドドドーンッ
ドドドドーンッ
ドーンッ
………………………………………

いつしか神鳴様の咆哮は止み
数万のオーディエンスは雷雲のなか消炭と化すか
はたまた落雷と成り跡形もなく消え失せた

こうして三時間にわたるイカヅチドラムソロライブの幕は下り
静まり返った雲上に終演のサイレンが鳴り響くなか
間髪入れず次回開催の告知アナウンスが流れる

"本日夕刻より東京都文京区上空雷雲アリーナにて開催が決定いたしました"
"イカヅチドラムソロライブツアー2023『神罰』in TOKYO"
"雷槌小僧の皆様には挙って御参加いただきますよう御願いいたします"

ハードスケジュールのケツカッチン続きに不貞腐れ
思わず舌打ちを漏らした神鳴様は
東京目指しゆっくりと空に舞い上がり虚空に消えた…

「午後六時の天気予報です」
「東京管区気象台より文京区及びその周辺を対象とした」
「雷注意報が発表されました」
「落雷に」
注意
してください」






※作中に記された各名称は実在するものと一切関わりは無く
史実もまた異相な平行世界の物語です





という事でですね
異常気象の原因は人間の営みによって作り出されてしまっている訳ですが
それに振り回され忙しく稼働させられる神様達もきっとピリピリしている筈
なのに注意報止まりの扱いを受け続ける神鳴様の心中たるや…
そんな神様の怒りを一身に受け止め落雷する雷槌小僧を

根付化です





六面図
四面は台座に乗せた状態です





今回自立しない根付にしてしまいましたので
落雷着弾台座を制作
飾っておくのならば此方にパイルダーオンさせる
という仕様です





" ひあぁぁあっあぁぁぁぁぁぁぁっ "
雷雲のなかで帯電しイカヅチと化す雷槌小僧
台座無しでこんな感じ





雷を纏って落雷中
イカヅチパターンを幾つか彫り分けてみました
「バリバリバリバリピシャーンッ」
なイカヅチのイメージ
「ゴロゴロゴロゴロピシャーンッドドーンッ」
なイカヅチイメージ





雷槌小僧の左手小指が一本で独立しているのですが
これを折るためには3㎜くらいの棒状の硬いものを滑り込ませ突く
など意図的にやらんとアクセス出来ない場所にあるので
自分的には良しとしてリリースしましたが
まぁそういう破損リスクはゼロの方が安心出来て良いとは思います
最近は細さとか薄さとか透かすとか…諸々再考する日々です





今回はイカヅチパターンをブリッジにした紐通し





サイズはこんな感じで





今日もバリバリ体張って落雷してます
根付「雷槌」完成です

いやーでもホントなんで雷って
雷警報が無くて雷注意報なんだろうって
理由はググれば出て来るのですが
神鳴様にしてみればナメとんのかと
おそらく「警報」の肩書を奪取するまで
イカヅチドラムソロライブツアーはより過激になっていくのでしょう
ほぼほぼ強制的に動員される雷槌小僧にしてみればねぇ
たまったもんじゃないと思いますけども…



2023年7月18日火曜日

根付 其ノ佰捌拾参

『 兎男 』
素材:鹿角、黒水牛角、黒檀、珊瑚



これが終わるまで至水の2023年は始められなかった訳で…





至水妄想奇譚

「あけまして夏」

2022年11月末
SNSのタイムラインには様々な兎モチーフの造形物が流れ行き
「来年はウサギ年かぁ…」
と、久々に干支もの根付を彫ろうかと思い立つ至水

思い返せば2015年に初めて「干支もの」として彫ったのが
「自らの羊毛でマフラーを手編みする羊」の根付
作品名は「編めども…」で
そこから申、酉、戌、亥、と毎年彫り続けるも
翌年から今年までの三年分は彫るのを止めている

制作済みの未年から亥年まで
モチーフはシンプルに「干支」なのだが
その年のトピックや自分自身を投影するという裏テーマを孕んだ根付は
なんやかやで至水にとっては重たい連作であった

そんな干支もの根付制作を三年ぶりに再開するのである
身も心も兎とシンクロさせるべく
卯年最強の干支アイテムと謳われる
「ロップイヤーキャップ」
「UT(卯タンクトップ)」
「バニーパンツ」
を入手した

これら三種の神器装着時のブースト効果はすさまじく
卯との精神融合は加速し続け
瞬く間に「兎の根付を彫る根付彫刻家」の根付が彫り上がって行く

飲まず食わずの稼働時間60時間超え
許容シンクロ率が上限2,000%の閾値を突破した瞬間
融合バランスを超過した卯の精神侵食により至水の意識が途絶えた…

パチンッ

聞き覚えのある嫌な音で目を覚ます
意識が途絶えどれだけの時間が過ぎたのか
左掌には「兎の根付を彫る根付彫刻家」の根付が
あとは兎の右目を象嵌すれば完成という状態で握られている
無意識下で進められた根付彫刻
これは自動書記ならぬ自動根付彫刻なのか…

「そうだあの音は…」

恐らくその音で意識を取り戻す直前まで
右目に象嵌する珊瑚のパーツを研磨していたのだろう
あの音は
現代根付作家ならば誰もが苦い記憶と共に耳に染み付いている筈の
「目の象嵌に使うパーツを制作中にリューターで弾き飛ばしてしまう音」
に間違いない

リューターの先端工具による高速回転で弾かれた0.数ミリのパーツを
見つけ出す事なぞ奇跡に等しい
何故なら根付彫刻の作業スペースには
不可視なワームホールが幾つも点在しているのだから

弾き飛ばしてしまった象嵌パーツは
当たり前のようにワームホールに呑み込まれ
今頃は七飯町にある湖「大沼」の畔にある「じゅんさい沼」に着水し
小さな波紋を波立たせているのではなかろうか

諦め半分それでも小一時間床を這いつくばり
懸命に象嵌パーツを探すも見つからず
やはりもう一度作り直した方が早かったなと
リューターの先端に装着されていた研磨用の豆バフを外し
珊瑚の原木とダイヤモンドバーに手を伸ばすと
不意に視界に入ったのは作業机横に設置しているPCモニター
画面右下に小さく表示されている日付を確認し戦慄が走る…

2023/07/12

この半年以上意識無く根付を彫り続けていた訳(筈?)だが
結局今年の干支もの根付も前年中の完成とはならなかったものの
こうして「兎の根付を彫る根付彫刻家」の根付は仕上がり
ようやく至水の2023年あけまして夏

七月盆の暑い暑い函館で
「いやぁ… 明日墓参りだわ」
と、思わず呟く至水であった






※作中に記された各名称は実在するものと一切関わりは無く
史実もまた異相な平行世界の物語です





という訳で今年の干支もの根付も仕上がりまして
皆様あけましておめでとうございます
2023年も宜しくお願い致します
もう7月ですが…

それでは「兎の根付を彫る根付彫刻家」を御覧あれ





六面図





兎の根付を彫る根付彫刻家
自画像みたいなものですから
飛ばした象嵌パーツが見つからずふてくされる俺ですね
(顔は似ていませんよ)





右目の象嵌を済ませれば兎の根付は完成
なのに…





研磨用の豆バフを外したリューターのチャック
(つんこではないぞ)





全てを諦めもう一度象嵌パーツを制作すると決めた根付彫刻家俺
だったのだが…





至水の銘は底面に嵌めて…
えっ!?
飛ばして見つからなかった珊瑚の象嵌パーツ?
こんなとこにあったんじゃん…





兎の左目に象嵌した珊瑚
ピンバイスに嵌めてるドリルが0.5㎜なんでそれ以下の大きさ
ちっさいちっさい
こんなの飛ばしたら見つかる訳ないのよ





2023年の象徴としての顎マスク
コロナ対策用に買っていた不織布マスクのストックが沢山あるので
実際に流用装着して彫刻作業している至水です





三種の神器その一「ロップイヤーキャップ」の表情は「無」
ですが脳に直接作用する卯電波を放出します





三種の神器その二「UT」はユーティリTシャツではなく
卯(ウ)タンクトップを略してのUT
干支ものに対する意気込みが感じられます





三種の神器その三「バニーパンツ」の紐穴開口部はやや小さめ
装着時に使用する根付紐として想定している
2.5㎜のアジアンコードを使うと
溢れた結玉を兎の尾に見立てられるという仕様です





サイズはこんな感じで小ぶり





2023年の干支ものは卯な根付彫刻家俺
根付「兎男」完成です

さてこの「兎男」(ウサオと読む)は
丸っと現在の至水そのもので
2018年に制作した干支もの根付
「戌男」のセルフオマージュだったりもするのですが
今回過去作の干支ものを改めて振り返り
やはり至水の干支もの根付は
全て自身の写し鏡だったのだなぁと再確認したのでした

そして来年は辰年
勿論干支もの龍の根付を彫る事になると思うのですが
きっとまた完成は年越す筈

至水は「年賀状は年明けてから書くスタイル」なので
その影響がデカい気がします…






2023年5月21日日曜日

根付 其ノ佰捌拾

『 脛刮 』
素材:鹿角、ピンクアイボリー、黒水牛角



至水は基本的に鹿角ばかり彫っておりますが
珍しく木を弄ろうと思い

そう
ピンクアイボリーを仕入れまして…





至水妄想奇譚

三日限妖道中飛脚之地獄
第一譚 
廣榮堂のきびだんご

時は安政三年
岡山藩は不景気故に沸き起こる大きな一揆に日々振り回され
藩主不在の市中にはなんとも不穏な空気が漂っていた

そんなある日
伊部で小さな飛脚屋を営む「砂河原屋」に
藩の役人が一人
人目を忍び訪ねて来る

見るからに焦燥を隠しきれないその役人が言うには
三日後の昼八ツまでに
江戸屋敷におられる茂政公へ届けなければならぬ密書がある
公に出来ぬ仕事故他言無用
大名飛脚も次馬も使えぬ
岡山藩の存亡がかかった藩直々の公務であり
一世一代のお役目なのだ

江戸まで三日限など到底無理な仕事だが
目の前に置かれた袱紗の包み
大きさから中身は見当がついてしまう
百両はくだらない

砂河原屋の主人は後先考えずこの大役を謹んでお請けした

役人から預かった密書在中とされる桐箱は
今年になって瀬戸物の廣瀬屋が菓子屋に商替えし
売り出し始めたばかりのきびだんごの土産箱にそっくりで
うやうやしく挟箱に収めていると
ふと股助という名の飛脚の顔が頭に浮かんだ

股助は砂河原屋の中で一番若く
大食漢でガタイは良いが少しばかり頭が足らぬ

故に仕事は馬鹿正直にやり通す…

間違いない
奴なら適任だと早速股助を呼びつけた

主人
「岡山から江戸まで百八十里の通飛脚」
「藩直々の大仕事だ股助、死ぬ気でひとっ走り行ってきな」

股助
「ひゃく、はち、じゅう…?」

主人
「無事やり遂げられたなら」

股助
「ぶ、ぶじやりとげられたなら?」

主人
「岡山藩お抱えの大名飛脚になれるのだ」

股助
「お、おらが大名飛脚に?」

主人
「そぉすればお前、廣榮堂のきびだんごも喰い放題だ好物だろう?」

股助
「そ、そりゃぁ、おらにしかできっこねぇ!」
「ぜってぇ三日限で江戸に着いてやりますぜ親方ぁ」
「いいってきまああす!!!」

主人の思った通り
端から無理な大仕事をあっけなく請け負った股助は
鼻息荒く挟箱をひっつかみ勢い良く駆け出して行った

江戸に向かい飲まず食わずでずうっと走りっぱなし
すっかり人気も無くなった暮れ六ツの街道は薄暗く
嫌な雨も降り出す始末

そしてこの辺りには日が暮れると野盗が沸いて出る
そう飛脚仲間から聞いていた

しかもその野盗どもの手にかかれば
身包み剝ぐどころか皮まで剥ぎ取られ
骨だけになった骸が街道に捨て置かれるのだとか…
そんな噂話を思い出し思わず身震いした股助は
勢い走り抜けるしかないと足を早めた

夜が更けるに連れ次第に雨脚が強くなると
不意に雲の隙間から月が顔を出し
十間程先の街道の真ん中で弾ける雨水が
月明りを浴び何やら蹲る丸い形に見えた

漬物石くらいのまぁるい…猫か…犬か

見る見るうちに間が詰まり思わず一跨ぎ飛び越した股の間から
蹲るのは小さな獣であると目視出来たものの
野盗は怖いわ急いで江戸に着かねばならぬわで
一刻たりとも止まる訳にはいかない

しかしあれが激しい雨に晒され蹲る小さな犬猫だとすれば
流石に見て見ぬふりも忍びなく
通り過ぎた十間程先でぴたり足を止め
街道脇の木陰に運んでやろうかと振り返るも
獣が居た筈の場所には何も見えず足元に生ぬるい何かが触れた

それはまぁるく蹲ったあの獣
「なんでぇこんなとこに…」
何が起きたかわからぬまま兎に角拾い上げようと手を伸ばした刹那
ざりっ
という音と共に
右脛に焼けた火箸をあてられたような熱い痛みが走る
「痛っでぇぇっ!」
街道に転げ雨でぐしゃぐしゃの地べたに突っ伏した股助は
蹲る小さな獣と目が合った

獣は鋭く目立てた鑢のようにささくれ立った大きく長い舌を伸ばすと
今度は股助の左脛を更に一舐め
刮いだ脛肉を美味そうに食んでいる
「ぎぃいゃあぁあぁぁぁぁぁっ」
痛みで立ち上がれず逃げる事も出来ぬ股助の周りをそろりそろりと歩き
一番美味いところを見定めた獣は股助の腹を舐め刮ぎ始めた

ざりざりと音を立てる度に腹肉は失せ
次は胸肉
次は腕肉と
美味い順にもりもりと獣の胃の腑に収まって行く

一刻も経たぬうち肉を刮がれ骨も露わな上半身は雨に洗われ白く光り
辛うじて頭と両足だけが残った股助を横目に
満腹した獣は街道脇の茂みへと姿を消した

獣の満腹とは裏腹に
飲まず食わずで走り続けたせいか
はたまた五臓六腑を失ったからの空腹か
薄れゆく意識のなか股助の走馬灯には廣榮堂のきびだんごばかりが映り
甘く香ばしい幻が鼻を撫でる

ほどなく月は雨雲に消え
暗闇のなか更に激しく降り出した雨に呑み込まれるように
股助の今際の声が微かに聞こえた

「あぁ… 腹減った… なぁ…」






※作中に記された各名称は実在するものと一切関わりは無く
史実もまた異相な平行世界の物語です





という訳で
妄想忌憚の締めも珍しく「続」で終わり
第二憚で完結するお話です

では早速
人の肉舐め刮ぎ喰らふデンジャラスビースト
「すねこすり」ならぬ「すねこそぎ」
彫りますね





六面図





赤い木製の巨大な鑢舌がべろり
これがピンクアイボリーです良いですねー
何か画像にオーブ的な白いぼんやりが映り込んでおりますが
すねこそぎの妖気などではなく
カメラのレンズに付着した鹿角の削粉でありましょう
多分





普段はこんな感じで蹲り通りかかる人間を狙う
待ち伏せ型のヒューマンミートハンターなのです





原典では犬のような
水木しげる大先生のは猫モチーフな「すねこすり」
至水の「すねこそぎ」は猫なのか犬なのか何なのか
判別し難い獣にしたかった





鹿角のテクスチャは斑の如し
色濃く染まる鬆の部分も柄に見立てられます





すねこそぎ最大のチャームポイント
それはフグリ
キャンタマもジャスティスだ





根付紐は鑢舌の裏を通ります





サイズ的にはこんな感じ





街道の惨劇は野盗の仕業などでなく脛刮の食事跡なのだ…
根付「脛刮」完成です

煮染の赤は色落ちするけど
元々赤い木であるピンクアイボリー
擦りまくっても全然平気だし
ピンクアイボリーの赤味が大変御気に入ったので
ちょっと暫く赤い根付が続きますのでごめんなさいね

で次登場するのは
赤と言えばな

そう

あの

赤い妖です…