2023/07/18

根付 其ノ佰捌拾参

『 兎男 』
素材:鹿角、黒水牛角、黒檀、珊瑚



これが終わるまで至水の2023年は始められなかった訳で…





至水妄想奇譚

「あけまして夏」

2022年11月末
SNSのタイムラインには様々な兎モチーフの造形物が流れ行き
「来年はウサギ年かぁ…」
と、久々に干支もの根付を彫ろうかと思い立つ至水

思い返せば2015年に初めて「干支もの」として彫ったのが
「自らの羊毛でマフラーを手編みする羊」の根付
作品名は「編めども…」で
そこから申、酉、戌、亥、と毎年彫り続けるも
翌年から今年までの三年分は彫るのを止めている

制作済みの未年から亥年まで
モチーフはシンプルに「干支」なのだが
その年のトピックや自分自身を投影するという裏テーマを孕んだ根付は
なんやかやで至水にとっては重たい連作であった

そんな干支もの根付制作を三年ぶりに再開するのである
身も心も兎とシンクロさせるべく
卯年最強の干支アイテムと謳われる
「ロップイヤーキャップ」
「UT(卯タンクトップ)」
「バニーパンツ」
を入手した

これら三種の神器装着時のブースト効果はすさまじく
卯との精神融合は加速し続け
瞬く間に「兎の根付を彫る根付彫刻家」の根付が彫り上がって行く

飲まず食わずの稼働時間60時間超え
許容シンクロ率が上限2,000%の閾値を突破した瞬間
融合バランスを超過した卯の精神侵食により至水の意識が途絶えた…

パチンッ

聞き覚えのある嫌な音で目を覚ます
意識が途絶えどれだけの時間が過ぎたのか
左掌には「兎の根付を彫る根付彫刻家」の根付が
あとは兎の右目を象嵌すれば完成という状態で握られている
無意識下で進められた根付彫刻
これは自動書記ならぬ自動根付彫刻なのか…

「そうだあの音は…」

恐らくその音で意識を取り戻す直前まで
右目に象嵌する珊瑚のパーツを研磨していたのだろう
あの音は
現代根付作家ならば誰もが苦い記憶と共に耳に染み付いている筈の
「目の象嵌に使うパーツを制作中にリューターで弾き飛ばしてしまう音」
に間違いない

リューターの先端工具による高速回転で弾かれた0.数ミリのパーツを
見つけ出す事なぞ奇跡に等しい
何故なら根付彫刻の作業スペースには
不可視なワームホールが幾つも点在しているのだから

弾き飛ばしてしまった象嵌パーツは
当たり前のようにワームホールに呑み込まれ
今頃は七飯町にある湖「大沼」の畔にある「じゅんさい沼」に着水し
小さな波紋を波立たせているのではなかろうか

諦め半分それでも小一時間床を這いつくばり
懸命に象嵌パーツを探すも見つからず
やはりもう一度作り直した方が早かったなと
リューターの先端に装着されていた研磨用の豆バフを外し
珊瑚の原木とダイヤモンドバーに手を伸ばすと
不意に視界に入ったのは作業机横に設置しているPCモニター
画面右下に小さく表示されている日付を確認し戦慄が走る…

2023/07/12

この半年以上意識無く根付を彫り続けていた訳(筈?)だが
結局今年の干支もの根付も前年中の完成とはならなかったものの
こうして「兎の根付を彫る根付彫刻家」の根付は仕上がり
ようやく至水の2023年あけまして夏

七月盆の暑い暑い函館で
「いやぁ… 明日墓参りだわ」
と、思わず呟く至水であった






※作中に記された各名称は実在するものと一切関わりは無く
史実もまた異相な平行世界の物語です





という訳で今年の干支もの根付も仕上がりまして
皆様あけましておめでとうございます
2023年も宜しくお願い致します
もう7月ですが…

それでは「兎の根付を彫る根付彫刻家」を御覧あれ





六面図





兎の根付を彫る根付彫刻家
自画像みたいなものですから
飛ばした象嵌パーツが見つからずふてくされる俺ですね
(顔は似ていませんよ)





右目の象嵌を済ませれば兎の根付は完成
なのに…





研磨用の豆バフを外したリューターのチャック
(つんこではないぞ)





全てを諦めもう一度象嵌パーツを制作すると決めた根付彫刻家俺
だったのだが…





至水の銘は底面に嵌めて…
えっ!?
飛ばして見つからなかった珊瑚の象嵌パーツ?
こんなとこにあったんじゃん…





兎の左目に象嵌した珊瑚
ピンバイスに嵌めてるドリルが0.5㎜なんでそれ以下の大きさ
ちっさいちっさい
こんなの飛ばしたら見つかる訳ないのよ





2023年の象徴としての顎マスク
コロナ対策用に買っていた不織布マスクのストックが沢山あるので
実際に流用装着して彫刻作業している至水です





三種の神器その一「ロップイヤーキャップ」の表情は「無」
ですが脳に直接作用する卯電波を放出します





三種の神器その二「UT」はユーティリTシャツではなく
卯(ウ)タンクトップを略してのUT
干支ものに対する意気込みが感じられます





三種の神器その三「バニーパンツ」の紐穴開口部はやや小さめ
装着時に使用する根付紐として想定している
2.5㎜のアジアンコードを使うと
溢れた結玉を兎の尾に見立てられるという仕様です





サイズはこんな感じで小ぶり





2023年の干支ものは卯な根付彫刻家俺
根付「兎男」完成です

さてこの「兎男」(ウサオと読む)は
丸っと現在の至水そのもので
2018年に制作した干支もの根付
「戌男」のセルフオマージュだったりもするのですが
今回過去作の干支ものを改めて振り返り
やはり至水の干支もの根付は
全て自身の写し鏡だったのだなぁと再確認したのでした

そして来年は辰年
勿論干支もの龍の根付を彫る事になると思うのですが
きっとまた完成は年越す筈

至水は「年賀状は年明けてから書くスタイル」なので
その影響がデカい気がします…






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