2022/11/29

根付 其ノ佰肆拾壱

『 刑天ノ剥身 』
素材:鹿角、黒水牛角、竹、真鍮、少年サイボーグ



先日投稿致しました根付「胴面上臈」
その元ネタだよねの刑天はコロナ禍直前の2019年に根付化していて
夏のワンフェスに製作途中の状態で参考出展
会場で御売約頂き年末に完成してお引渡ししていました
この年の夏ワンフェスは
花影抄も巻き込んでの至水至上最も熱いワンフェスでしたね



さて刑天ですが
山海経の海外西経にさらりと登場します
黄帝との神の座を懸けた争いに敗れた刑天は
斬首され常羊山に埋葬されるが
両の乳は目と成り臍は口と成り
右手に戚(斧)左手に干(盾)を携え
闘志衰える事なく武舞を舞い続けた
(詳細はwikiでザックリご確認を)

というお話なのですが
ここから妄想が膨らんで
斬首直後から妄想奇譚が続きます…





死水妄想奇譚

「猛志固常在」

黄帝は眼前の光景に怒り打ち震えていた

胴の両乳に代わり浮き上がった眼は鋭く黄帝を睨みつけ
臍に開いた喉の奥より響かせる咆哮は常羊山を震わせる
斬首され尚 刑天は立ち上がり
その闘志微塵も衰える事なく武舞を舞い続けているのだ

貴様は敗北し死んだのだっ

勝者として強大な神力の下賜を約束された黄帝は
天帝への反意なぞ在ってはならぬと
刑天を骨片一つ残さず雲散霧消させるべく
自らの寿命から千年分を昇華し顕現させた覇者ノ神槍を
刑天めがけ打ち放った

轟音と共に真っ二つ裂ける常羊山を背に
刑天の四肢は吹き飛び表皮が蒸散して行く
眩い光渦が収束した跡には紅肉剥き出しの胴だけが転がっていた

寿命千年では足らぬというのか…

しかし咆哮は止み胸に見開いた眼は生気を失い微動だにしない
刑天の死を確信した皇帝は安堵し神位を賜るべく天界へと飛び立った…


遠くで足を踏み鳴らす武舞の律動が微かに聞こえる
いや
これは己の頭の奥深くで鳴り続けているのだ…

肉体の大半を失い現世を離れた刑天の意識体は精神世界に蘇生していた

固く瞑った瞼に閉ざされた深淵か
暗闇で眼を見開いた暗黒か
ただ眼前に拡がる無限の漆黒に己の悔恨だけが溢れ渦を巻き続けている

天帝神位への執着と黄帝へ向けられた際限のない闘志の奔流が
精神世界での臨界に達した刹那
現世に残された刑天の胴を介しアストラル体と成り五十里四方に放散され
一瞬にして胴めがけ収斂するや其処には
超密度の高位アストラルボディを纏い
右手に戚、左手に干を携えた巨人が屹立していた

巨人刑天の両乳の眼は天空を睨み
ゆっくりと武舞の律動を踏み鳴らすと
再びの神位争奪戦を挑むべく
黄帝を追い天界へと飛び立った…

刑天舞干戚 猛志固常在

不屈の闘志は何度でも己を立ち上がらせるのだ








はい
妄想ですからね
引用創作です

という事で刑天の根付化なのですけども
この2019年のワンフェスに出展する際の死水のテーマが
「プレイアビリティ」
これって何かというと

根付の楽しみ方って色々ありますよねと

「提げものと併せて実際に使う」
とか
「コレクションして並べて飾って眺めてニンマリする」
とか
「掌のなかでにぎにぎする」
とか
「自作の根付を彫ってみる」
とかとか

で、今回の刑天は
「遊んでみる」

そうです

ブンドド出来る根付なのです!





六面図





皇帝による覇者ノ神槍の一撃で
ずる剥けにされてしまった刑天ボディ





背面
筋組織のテクスチャとかみっちり入れているよ





結玉は左みぞおちに収納されます





サイズはこんな
饅頭根付感覚でお使いくださいの感じ
指汚いな





さてここからが今回のテーマであります
「プレイアビリティ」
の真骨頂
先ずこれが少年サイボーグを素材として製作しました
「刑天ノ剥身」専用の根付ケースになりまして
胴体をパックリ開けて根付を収容します

ご覧ください
超密度の高位アストラルボディを纏い蘇った
巨人刑天の出来上がりです
ちゃんと乳のとこに眼があるし
臍のとこに口がありますでしょ

そして戚(斧)と干(盾)も作りまして
干の裏側にはこのように持ち手があります

勿論装備可能でございます
つまり「刑天ノ剥身」専用の根付ケースは
変身サイボーグシリーズでいうところのアウトフィットであり
戚と干のウェポンセットが付属する
アクションフィギュアなのです
あとはドクロキングのアウトフィットを着せた
キングワルダー Jr. を黄帝に見立ててですね
天界でのリベンジマッチを思う存分ブンドドしてくださいませという
そんな根付なのでした





共箱もスペシャルです

きゅっと結んで固定します
ね?
お分かり頂けますでしょうか

ワイヤー入りビニタイを使って台紙へ固定する
変身サイボーグシリーズの紙箱パッケージのオマージュなのです





刑天舞干戚 猛志固常在!!!
根付「刑天ノ剥身」完成です

歌川豊弘デザインの元ネタは刑天なのでは?
それが根付「胴面上臈」制作に至る切っ掛けの一つとして在った訳ですが
山海経や中国古代神話に登場する神々や異形の獣達は
古の日本の絵師達の神アレンジによってブラッシュアップされ
新たなキャラクタとして生まれ変わり描かれていたり
関連性を妄想するのがとても楽しいのです

そしてこの中国神話等を詳しく解説しておられます
ウェブサイトプロメテウス様のテキストは素晴らしく勉強になります
特に山海経関連ではいつも参考にさせて頂いておりまして
今回の刑天に関する諸々も大変お世話になりました
ありがとうございました



2022/11/27

根付 其ノ佰漆拾参

『 胴面上臈 』
素材:鹿角、珊瑚、黒水牛角、黒檀



今年の前半くらい
ツイッタの TL に妖怪「はらだし」に関するツイットが流れて来まして
添えられていた画像は歌川豊広が描いた「伯州船上山古寺之怪」で
この画と「はらだし」の関係についての諸々は
はらだしの wiki を見て頂きたいのですけれども

いや刑天が元ネタだよなぁとか思いつつ
はらだし彫ろっかなぁとかなんとなく調べ始め
江戸時代後期に山東京伝によって書かれた
「小説浮牡丹全伝」を知る事になるのですが
これが読物としてとても面白く…

ですので今回は至水妄想奇譚云々はいらぬと
ここら辺のリンク先で公開されております小説浮牡丹全伝は
全文読めますので是非御一読頂きたいのです!

至水は国立国会図書館デジタルコレクションから PDF を DL して来て
今回の根付の元ネタとなる小説浮牡丹全伝の第一回(第一話)
古文でもんのすごい読みにくいですけども
この1エピソードだけはなんとか読みました

古寺で起こる怪異をめぐり
力の嵯峨右衛門と知の豹太夫が出会うまでのお話なのですが
(至水の読み下しが間違っていなければ)
古寺に現れる化物達の中の一人である上臈姿の化物を描いた
(おそらくその場面を描いていると思われる)
歌川豊広の「伯州船上山古寺之怪」を元絵として
至水解釈で根付化したのが今回の根付
「はらだし」改め命名「胴面上臈」なのでした

という事で彫りますね





六面図





左手には「干」(盾)

右手には「戚」(斧)

そして胴には「異形の面」とくれば
元ネタは刑天に間違いなしと勝手に納得しまくり





本来であれば
破れた袴の内側に錦襴絞纈の柄生地が見え隠れ
なのだけれど脱ぎ捨てちゃっているもんで
画像では見えづらいのだけれど
ドロドロと黒く渦巻くテクスチャを彫り込んでいて
下半身は消失しているという設定なのです





舌と乳目には珊瑚(他意は無いよ)
臍口から見えるお歯黒前歯は黒水牛角が嵌ってます





「伯州船上山古寺之怪」の大好きポイントが
上臈の長い髪が胴面の髪にも見えるところ
根付だと髪を片側に流してしまったのであんまり伝わらないけど
この角度だとそれっぽく見えるかな…





この乳を丸々眼球に見立てた歌川豊広のデザイン
カッと見開いた感じが好き





背中に紐通し穴
今回少し小さめで

髪の毛がブリッジになっているのだけれど
1.5㎜径くらいの紐までは結玉を紐穴に収納可能





根付袋はこの形式でほぼほぼ固まった感じ
何かスペシャルな時には初期の柄生地使った根付袋の復活もありだけど
基本シンプルなのが良いな
黒べっちん好き





人物像根付ならこのくらいのサイズ感は欲しい少し大きめ
厚みは20㎜強なので使い勝手は良い筈
根付の使用感は厚さに左右されると思っているので





とにかく「小説浮牡丹全伝」読んでみて!
根付「胴面上臈」完成です

小説浮牡丹全伝は第二回の序盤までチラリと読んでみて
どうやら嵯峨右衛門と豹太夫のバディもので
怪奇大作戦が繰り広げられるであろう展開にワクワクしつつも
古文故に読み進めるのを躊躇するというヘタレ状態

現代文訳で書籍化
いや漫画化
なんなら Netflix で実写化とか…

やってくんないかなー





そして「伯州船上山古寺之怪」の元ネタだなぁの刑天は
2019年に根付化してワンフェスに持っていったヤツ
ブログ未掲載だったので
続けて投稿しましょうね



2022/11/09

根付 其ノ佰漆拾弐

『 薬鬼白澤 』
素材:鹿角、黒水牛角



昔、何年前でしたか
根付彫り始めた最初期にタグアナッツで白澤彫ったよなぁ
でも彫り途中で象牙椰子特有の中空ゾーンに達してしまい
完成せずに終わっていたよなぁ
とか思い返しながら
白澤なのかなんなのかという白澤を彫ってみようと…





至水妄想奇譚

「月ノ雫」

齢七つになる娘を背負い
夜明け間際から歩き詰め既に陽は落ち暮れ六つを過ぎ
白月山の九合目辺りの山道脇で人間大の苔むした白い岩を見つけた
大婆様から聞いていた印、人岩だ
山の真上に月が上るまでに間に合うだろうか
男は焼けるような高熱にうなされる背の娘に大丈夫だ大丈夫だと声をかけ
山道から外れ人岩の傍から藪をかき分け森の奥へと進んだ…

…………………

一昨日の朝
目を覚ますと布団の中で女房が息絶えていた
昨日まで元気にしていた女房が急に…
全身を赤黒く腫らした亡骸はまだ熱い
村の長老である薬師の大婆様に診てもらうが何の病か皆目見当つかず
しかし流行病に違いないと
とにかく熱病に効く薬をあるだけ受け取り
女房の遺体は直ぐに埋葬し
一人娘と共に数日は家に籠る事しか今は出来ないと言う

翌朝
娘が発熱した
やはり流行病なのか
顔から首、体へと徐々に赤黒く腫れが拡がり高熱にうなされている
匙を投げられたも同然と
分かってはいるが居ても立っても居られず
男は家を飛び出し大婆様の元へと走った

気休めか、抗う事叶わぬ事象への諦めを促すためなのか
大婆様は男に白月山に纏わる昔話を語り始めた…

村から数里離れた白月山の山頂には人間大の白い岩があるらしい
年に一度、山の真上に満月が上った夜
月から一筋の白い線が山頂へと降りて来る
これを月の使者の降臨と信じた者達が白い岩を安置し鳥居を建て
夜天の神として祀ったのだが
鳥居を建て一年経った頃
山の九合目辺りで鬼を見たという噂が流れ
山畑がある三合目より先への入山は禁じられた

それから数十年後か
十数人の旅の修験者達が村に現れた
その内の一人が白月山と近隣の村人の様子を聞き調べるために
大婆様から五代前の薬師の元へとやって来たのだが
話をするうちに修験者達の目的を知る事になる

その修験者は白月山の山頂へ降りて来る白い線は月の雫であると言う
月は上り沈みを繰り返しながら地より神水を汲み上げる器であり
器が満ちて溢れた一滴が白月山の山頂目掛け零れ落ちる月の雫なのだ
修験者達はこの神水を「始至水」と呼び
霊障に起因するもの含め如何なる病も無に帰す神薬と成るらしい
不老長寿どころか不死を叶える事すら夢物語ではなくなるのだと

修験者達は白月山には鬼が出るという薬師の忠告を気にもせず山へ向かい
山中で神水を溜める巨大な瓶を作ると聞いていた通り
九合目辺りから野焼きの煙が立つのを確かに見たが
その後修験者達を見た者は誰もいない

いや… 唯一人
鬼の噂を笑い頂上を目指した余所者がいたが
道中で白い岩の後ろに立つ大きな鬼を見たと
喚き気狂い逃げ帰って来たが
その白い岩ははおそらく鬼の仕業
呪いで岩にされた修験者達の成れの果て
「人岩」なのだ…

ところで明日は満月じゃ

大婆様の言葉にはっとした男は急ぎ家に戻り娘を背負い
まだ夜も明けぬ暗がりを白月山へと走りだしたのだった…

…………………

鉈で藪を払いながら森の奥へと分け入ると
山中には場違いな人間大の白い岩が所々にあり
幾つも見ているうちに人間大の岩というよりも人型の岩
人岩なのだと腑に落ちる
いつの間にか人岩を辿る様に木々の間を進んでいた

十数個めの人岩の先で急に森が開け
見上げると真上で静かに輝く月から一筋の光が落ちて来るのが見えた

月の雫なのだろうか

急に力が抜け膝をついた男は
七竈の根本を枕替わりに娘を寝かせてやると
沢があるのか近くで水が流れる音が聞こえ不意に喉の渇きを覚えた
飲まず食わずで歩き詰め竹筒の水は娘に飲ませ空になっていた
水を汲もうと音のする方へ歩き出し
森の中へ分け入ると背後で水滴が落ちる音がした

振り向くと五間程離れた先で
寝ている娘を覗き込むように伏せ見下ろす白く巨大な鬼がいる

背筋が凍った

無我夢中で手にした鉈を鬼の畳二枚はあろう顔目掛け投げつける
頬に当たった鉈は大きな音を響かせ弾け飛び
娘が眠る七竈の幹に刃を喰い込ませた

鬼の白い肌はまるで岩のように頑強で
鉈が当たって付いた僅かな刃傷から細かく砕けた粉塵が
はらはらと娘の上に舞い落ちる
鬼は男を一瞥すると森の方へと後退り暗闇に溶ける様に消えて行った

男は急いで娘に駆け寄ると思わず声を詰まらせ涙が溢れた
鬼の肌が砕け舞い落ちた粉塵を被った顔からは徐々に腫れが引き赤みが失せ
すやすやと寝息を立て眠っているではないか

どういう事かと混乱しながらも鬼が消えた森の奥に目をやると
木々の隙間から僅かに差し込む月明りに照らされ
ぼんやりと光る大きな丸い何かが見えた

傍まで行くとそれは大きな素焼きの瓶で
大昔に修験者達が月の雫を集めようと焼いた瓶なのだろうか
瓶によじ登り中を覗くと落ち葉が沈む透き通った水で満たされていた

いやいや… 雨水だろうさ

と呟きつつも
それでも半信半疑竹筒に汲み
村へ戻った男は急ぎ大婆様の元へ向かう

男から竹筒を渡され事の顛末を聞いた大婆様は
薬師の家に代々伝わる膨大な調薬書の中
異国から伝わったとされる一冊に描かれていた
病魔を退けるという瑞獣「白澤」の事を思い出していた

後に村には無病息災を祈願した白澤を祀る小さな社が建てられ
年に一度の白月山の真上に満月が上る夜
男が竹筒で持ち帰った水を月の雫に見立て注ぐための
素焼きの瓶が安置された

白月山は現在も神山として入山を禁じられているが
山中には鉈が当たって出来た刃傷が残る大きな素焼きの瓶が
苔むしながら月の雫が零れるのを見上げている筈だ






さて白月山に現れた鬼は白澤なのか
月の使者なのか
瓶の変化妖なのか
幾らでも考察出来る白澤奇譚になりましたね
なった筈

そんな白澤を根付化します





六面図





ごっつい…
岩の様に頑強な肌のイメージは
鹿角のテクスチャを出来るだけ残す事で醸す作戦





白澤の尾は"わっさわっさ"させたいもの





白澤と言えば九つの目ですが
原典では胴体両側にそれぞれ三つずつ配される目を
わさわさの鬣の中を常に移動しているという設定に
蠢く眼球





驕り高ぶる人間に鉄槌下す者
恐ぇ…
でも悪いヤツって訳でも無いのですよ
人間の領分を越えた傲慢さが引き寄せてしまう
人知を超えた絶対的な力の顕現
惹かれるわ





暗い山中で至近距離で出くわしたら失禁間違いなしな巨顔
(畳二枚大)





巨大な鬼が地べたに寝そべる小さな人間の娘を
伏せて覗き込んでいる感じ





腹に抱え込んだ瓶と前脚の樋爪のとこがブリッジになっている紐通し
神薬を精製する瓶にラベルを貼って銘とします
もう一つ白澤と言えばな両体側から二本ずつ突き出した角
これは腹側から生えている設定なのだけれど
瓶を設置したせいで造形的には今回はオミット





根付袋はどこまでシンプルに出来るかを突き詰め
まだまだ模索中の黒べっちん





サイズはこんなで塊り感すごい





其れは鬼かそれとも神か…全ては人間次第也
根付「薬鬼白澤」完成です

修験者達が手にしようとした「始至水」とは
悪い事象が身に降りかかる前の状態
始まりの状態に引き戻す神薬…
しかしその所業は人間の領分では無かったの
そりゃぁ鉄槌下ります
というお話でもあり

妄想奇譚も色々と考察の余地を鏤めて書いてみたつもりで
コレはあれの事?とか楽しんで頂けると嬉しいです

しかしまぁ根付彫刻の技術的な話は一切無いんだね
至水はそーいう根付彫刻家なんでもーこれは
ねー
ごめんなさいね


そして最後に
月の雫云々は花影抄スタッフの方との作品批評DMのやり取りの中で出た
「縄文のヴィーナス」の話にインスパイアされ盛り込んだ設定でした
スペシャルサンクス堀川さん!
という事で
ありがとうございました!