2022/09/21

根付 其ノ佰漆拾

『 ぬりかべ 』
素材:鹿角、黒水牛角



ブログには未投稿ですが
ブリガムヤング版「ぬりかべ」の根付を2019年に彫っていて

今回はその前日譚的なお話で
再度 ぬりかべ を根付化します
ぬりかべ 大好きよ





至水妄想奇譚

「スルベカラズ」

白肌と言えば右に出る者無しと
誉れ高き妖界隈随一の白肌の持ち主である塗壁は
身の丈三間は優に超える体躯故に
のべつ幕無し人間から獣から現世に生きるあらゆる他者から
日々向けられる好奇の目にほとほと嫌気が差していた

人の世の元号で言うところの宝永か
伯耆国の倉吉を訪れた塗壁は
白壁の土蔵が建ち並ぶ街道を歩いていると
いつもとは違う妙な感覚
周囲からの嫌な視線を全く感じない事に気付き戸惑っていた

道道すれ違う人間から犬猫鶏に至るまで
自分の存在に全く気付いていない
いや、気付けないのではないか

どうやらこの白壁が続く景色に溶け込む巨漢の白肌は
何をするでも無く他者の目から逃れられる隠れ蓑となるようだ

塗壁はこの地を終の住処と決めた

ある朝塗壁は足元の白肌に広がる嫌な染みを見つけた
夜な夜な泥酔した人間が壁に向かい立小便をするのを見かけはしたが
とうとう自慢の白肌までも汚されるとは…
妖である自分に近寄る者など誰一人居なかった頃
此処倉吉に来る以前には考えもしなかった事だ

こんな屈辱が続いては堪らぬ塗壁は
昔他所の宿場町で目にした土壁に描かれていた立小便除けの印を思い出した

早速白肌の大きな腹の真ん中に赤い鳥居の形を描き込むと
鳥居に小便引っ掛けるなんて罰当たりな事は出来ないって寸法か
良く考えたものだと悦に入る塗壁の腹の下を通りすがる犬が一匹
不意に立ち止まると片足を上げた

足元にちろちろと拡がる生暖かい感触に
嗚呼…獣には罰もへったくれも無いものよ
と、諦めが滲む遠い目で
立ち去る犬と街行く者達を眺めながら
今日も誰からの視線も気にする事のない
塗壁の穏やかな一日が始まるのであった








望むもの手に入れた刹那新たなる望まぬもの現れり
人生はそんな塗壁の繰り返し
皆様いかがお過ごしでしょう

いやトータルでね
幸せの分量が多かったらそりゃ全然オッケーですて塗壁も言ってた
確かね

そんなお話かな…

うん

じゃ

根付化するね





六面図





この"たゆんたゆん"な肉垂たくし上げ
至水の大好物





目は黒水牛角の象嵌にしたので
黒い牙は酢酸鉄反応(所謂お歯黒の原理)で違う黒感に





いぬーっ!こらーっ!





神をも畏れぬ最強の存在
INU





紐穴は最近至水にブーム到来中の平行二連
サイズの小さい根付には無理なく相性が良い紐穴
こんな感じで
結玉を提物側で処理しないといけないのがアレかなと思うものの
そこは工夫次第なので根付に併せた提物も考えたい
(実はこの ぬりかべ に併せる提物案はある)





根付袋は毎度色々試行錯誤中
今回はシンプルべっちん





サイズはこんな感じの小さいやつ





犬の耳に念仏か…
根付「ぬりかべ」完成です

続けてブログには未投稿の過去作
2019年に根付化した ぬりかべ も連投しますね

終の住処に辿り着き三百数十年
消えゆく白壁に見切りをつけ
コンクリートジャングルと化した日本をサヴァイブすべく
新たな生きる術を会得した現代塗壁のお話です

お楽しみに



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