素材 : 鹿角、黒水牛角、真鍮
「さがりの樹」
二年続いた大雨と冷害が飢饉という死の匂いを孕み始めた天保六年
その村では弱い者から命を落とし
生き永らえる者もまた衰弱して行く
先の見えない生き地獄をただ生きる日々が続いていた
餓死が二十を越えた八月の蒸し暑い夜
村長の一存により集落で一頭だけ飼われていた農耕馬を屠る事になった
今まで村のために一緒に働いて世話になった馬を屠る
村の民皆で喰らうために
嫌な役回りを押し付けられたのは
何年もずっと馬の世話を任されて来た与平であった
蓄えの餌藁も底をつき
骨が浮き出た脇腹と
ただじっと見つめる黒い眼に映る
鉈を手に泣きじゃくる与平の姿に
馬は自らが人間の糧となる事を理解した
骨だけを残した馬の亡骸は
少しでも罪の意識を薄めるためか
純粋な感謝と礼節か
村外れに聳える榎の巨木の傍らに埋葬し
村の民皆で供養する事とした
骨の亡骸が山積まれ人一人の力ではびくとも動かぬ荷車は
半年前までは馬が牽いていたのである
埋葬までを任された与平は
隣家に住む弟の与助に手を貸すよう頼みに行った
与助は先月最愛の妻を飢餓で亡くし
毎日を抜け殻のようにただ生き永らえているばかりであったが
馬の肉を頂戴した恩義からか
返事も無いまま荷車を押す手伝いに出てくれた
陽炎立つ荒れ道を村外れまで兄弟二人荷車を押し
榎の巨木の傍らを馬一頭の遺骨を埋葬するに十分な深さまで
鍬で掘り手で掻くを繰り返し繰り返し繰り返し
埋葬を済ませた頃には日も暮れ始めた
朦朧としながらも榎に向かい硬く目を閉じ手を合わせる与平
村の人間のためとは言え
手にかけなければならなかった無念を繰り返し繰り返し詫び
涙を拭い顔を上げたその刹那
与平の鼻を衝く異様な臭気と共に眼に映る馬の首
頭から伸びた一本の腕で榎の枝にぶら下がり
首の根から噴き出る臓物を鬣に搦め上げ
あの夜自分を見つめた黒い眼は
今もこちらを凝視している
馬が化けて出てきたか
勘弁してくれ 勘弁してくれ 勘弁してくれ 勘弁してくれ 勘弁してくれ
与平が更に固く手を合わせ異形の馬の首に詫び続けているその横で
腰を抜かしたか尻を着き倒れ込んだ与助が譫言のように繰り返す
許してくれおせん 許してくれおせん 許してくれおせん 許してくれおせん
・・・おせん
妻の名である
与助の目に映るのは馬の首に非ず
頭から伸びた一本の腕で榎の枝にぶら下がり
首の根から噴き出る臓物を自慢だった長い黒髪に搦め上げ
あの夜自分を見つめた覚悟の黒い眼は
今正に与助を凝視しているのだ
一月前飢餓で亡くなる最愛の妻が最後に漏らした別れの言葉は
わたしを食べてあなたは生きて
まだ蒸し暑く人肌の風が漂う夕間詰め
村外れの榎の巨木の前に
背負うに重過ぎる罪と後悔を見せつけられ気狂う男が二人
そしていつ終わるとも知れぬ飢饉の夜が
今日も変わらず訪れるのであった
後に村外れの榎の巨木は「さがりの樹」と呼ばれ
近寄る事は村の禁忌となる
もうね
此処って根付のブログじゃありませんでしたっけ?
ホント素人の妖怪夜話を読まされる苦痛たるやごめんなさい
読んで頂けた方には涙流してありがとう!
いやこのテキスト込みで至水の根付なのだからねっ(涙)
なにせ盆時期ですし
(過ぎてるけどね)
「可愛げ」とか「可笑しみ」なんてものは一切削ぎ落とした
恐ろしくも悲しい妖しの根付を彫ってみるよ!
四面図
至水の妖怪夜話「さがりの樹」に登場する「さがり」は
馬頭の妖怪という訳ではなく
「見る者の心の奥底に根を張る後悔や罪の意識の形を成して現れる妖怪」
なんて妄想から
与助の心を覗き込んだ「さがり」は勿論・・・
今回は完全に自立不可物件なので懸架台付けてます
引っ掛ける部分の真鍮パーツと
ベースの鹿角柱との接合部は結構華奢なので
御購入頂けた方はやさしくしてあげてください(涙)
(おまけ程度に考えて頂ければこれ幸いだったりします)
来てますっ!!!
因みに兄の与平には馬を屠った罪悪感から
水木しげる御大描くところの
あの馬頭の「さがり」に見えている
という事で
という事で
いやー
俄かに到来している差根付ブーム
(お前だけだよとかは聞こえませんハイ聞こえません)
また彫っちゃってるんですよねぇ
って事で次も差根付ね♪
あと最後に
YouなチューブにUPしといた
ぷらぷらさがり動画おまけで貼っちゃう
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