2022/08/09

根付 其ノ佰陸拾玖

『 観測器 』
素材:鹿角、ユーカリナッツ、黒水牛角



フェアのテーマが「深淵」だったので
一応再度原典の雰囲気に触れておこうと
数十年前に購入しカサッと読んで途中で挫折したコレを
書籍貯蔵箱から発掘して読み返そうとチャレンジしたものの
読了前に根付は完成してしまい…





至水妄想奇譚

「Ten percent of the brain myth」

2122年、脳科学者ヒルデガルド・ベルガーにより公表された論文
「特定の精神状態に於ける脳機能局在の変異観測」に端を発し
脳科学、宗教学、民俗学、心理学の各カテゴリに属する研究者達の
数多の犠牲を以て成された「カオス」の概念的統合は
真カオス学会創立の試金石となり
「人間の余剰能力解放の能動的発現」
にまで至らせるパラダイムシフトとなった

2200年代初頭より加速度的に増大を続けた陰惨な猟奇事件の数々
関連する被疑者達のバックグラウンドに共通し存在する邪神崇拝は
世界的な拡がりを見せる深刻な社会問題と化していた

被疑者の精神鑑定に於いて使用されていた
旧来の脳パルスメータが一様に示す特異な波形について
真カオス学会関係者へ漏れ伝わるまでには左程の時間を要せず
パルスメータ製造に特化したベンチャー企業「CHAOSISTECK」が
真カオス学会との共同研究で進めていた
カオスマッピングビジュアライザを用いたブレインスキャンを
非公式とはいえ被疑者の精神鑑定に於いて早期に試験導入出来たのは
真カオス学会によるロビイング史上最大の成果だった

ブレインスキャンにより初めて露わとなった被疑者の脳内
高密度立体写像として映し出された
壺型繊維塊の一端から萌出する触腕の奥には
眼球状の可動体が蠢き
モニター越しに此方側を見つめている

この既視感は日本の伝統漁法「蛸壺」を想起させるフォルム故か…

蛸壺は「Abyss」と命名された

真カオス学会に引き渡された被疑者は被験者となり拘束され
リアルタイムカオスマッピングによるモニタリング開始から数時間後
Abyss を起点として送信されていると思しき「何か」が写像化された

被験者の精神混沌の深化と比例するように
脳内外を行き来する信号的「何か」の写像化頻度は増し
902日後に狂死する瞬間まで確認されている

真カオス学会に所属する宗教学者が提唱する
Abyss の機能に関する仮説に記された一節
「信者の精神混沌深度を観測し崇拝する神へ送信する概念的器官」
それは現在の科学技術では立証不可能な領域であったが
全ての人類の脳内に非アクティブな Abyss は存在し
人為的覚醒を促す事で人間の余剰能力解放を可能とさせる実証実験は進み
世界中で確実な成果が報告されると同時に
Abyss のアクティベートリアクションに起因する
邪神崇拝者の増大に拍車をかけた

世界政府をも懐柔し妄信的に推し進められた Abyss の人為的覚醒は
各地で余剰能力解放者のクラスタを形成させ
クラスタ密度がある一定の閾値を超えた瞬間
人為的操作を必要としない覚醒の連鎖が始まった

瞬く間に世界はある種の巨大な宗教戦争的様相を呈して行くが
8年後
受肉条件に達し現世に顕現せしめた超古代の邪神により
人類の歴史と共に全てが消失する事となる

邪神の名は

Cthulhu








壮大なる神話体系のこの世界の片隅に的1エピソードになったらいいな
とか思いつつ

クトゥルフもの根付彫ってみるよ





六面図





わー見てんなー





蛸壺からニュルニュル感
今回紐を通した画像撮り忘れ
触腕のブリッジになってる所が紐穴です





くわーっ
血走ってんなー
すっごい見てんなー





鹿角とユーカリナッツのマリアージュ…
やっぱ見てんなー





以前彫った根付「野槌」の時に初めて使用したユーカリナッツを
今回は表面を削ぎ薄皮一枚剥けた状態をしつこく磨いたもの
なんとなくな筋線維風の肉芽感あると思う





いつもの「下から煽ると大体カッコ良くなる理論」に則って撮った一枚
だが煽り足らず…





根付袋は柄生地被せずシンプルに黒べっちんのみ





サイズ的にはこんな感じだけど
コロコロ丸いんでそこそこボリューミー





深淵を覗く時、深淵もまた…
根付「観測器」完成です

この根付は現在函館蔦屋書店の美術書エリアで展開されております
クトゥルフをフックとしたブックフェアにて展示販売中

テーマは「深淵」という事でクトゥルフのみならず
異形の者達にスポットを当てたブックフェアとなっているそうで

期間中至水も会場へ観に行こうと思いますが
根付と一緒に展示されているダラダラと長文な妄想奇譚を
もし立ち読んでくれている方がいたならば

周囲には感涙止まらず一人咽び泣くおっさんがいる筈

そいつが至水です

そっとしておいてやってください



2022/08/06

根付 其ノ佰陸拾捌

『 福屋の提灯 』
素材:鹿角、真鍮、黒水牛角



はぁー

不穏

世の中どこもかしこもなにもかも不穏で疲れちゃう

だからせめて
幸せを

そこそこの幸せを妄想しよう





至水妄想奇譚

「福屋の提灯」

江戸から歩いて三日ばかり
東海道沿いの小さな集落で茶屋を営んでいた父が亡くなった

六十は疾うに越え大往生だと呑み込むが心残りも無くはない
職人に憧れ家を飛び出し浅草の提灯屋に飛び込み提灯張りを続け十五年
繁盛につき始終忙しく一度も家に帰らず死に目にも会えていなかった

潮時…

齢三十を過ぎた提灯張りの男はふと思い立つ
この世に居ない親への孝行なぞ今更な事は承知の我儘だ
提灯屋を辞め家に帰り親の茶屋を跡取ると
奥歯噛みしめ親方に伝えた

真面目な仕事っぷりで腕の立つ提灯張りを失うのは提灯屋にも苦しい話
さりとて男の決心揺らがぬ事は目を見れば分かる

親方は良し分かったと
仕上がったばかりの提灯十五張を餞別だ持って行けと
惜しみながらも男を送り出した

ここで産まれて十四年
幼少期を過ごした懐かしい家は相変わらず
竈も蒸篭もその頃の記憶のままで
さて早速店開きに取り掛かりたいのだが
飯の焚き方すら知らない男が餡子の仕込みなぞ知る訳もなく
だが一つだけやれる自信は無くはない

昔から父が作ったみたらし団子は好物で
提灯張りで頂いた給金の殆どは
江戸中の甘味処でみたらし団子に変わり胃の腑に収まった
そう言っても過言ではないくらいとにかく喰った

舌が憶えている筈のみたらしの味を再現すべく七日七晩悪戦苦闘の末
入口軒下には親方から餞別で頂いた提灯十五張ずらっと吊るし
新生甘味処「福屋」が店開きした

付け焼刃のそこそこ美味いみたらし団子しか出ない甘味処は
初めは集落の住民が帰郷した男を懐かしみ良く通ってくれていたものの
京へ向かい東海道を歩く旅人も素通りで
繁盛とはならず三月が過ぎた

このままではと男は思い立つ
日が落ちてからも店を開けとこう
何せ餞別に貰った提灯吊るしてあるもんで日ぃが暮れたとて大丈夫
甘さ抑えたみたらしに香の物一つと桝酒を添えて
「大人のみたらし膳」
お品書きが二つになった

店開き以来初めて提灯に火を灯そうと右端から順に蝋燭を入れていくと
真ん中の提灯がごそごそと揺れた
良く見ると火袋裏側の竹骨が割れ紙が裂け
中で何かが動いている

あぁ?こいつぁ蝙蝠じゃねぇか

いつの間に住み着いたか蝙蝠が一匹
軒下に吊るされた提灯の中でぶら下がっていた

居合わせた客が眉をひそめ追い払ってはと進言するも

いやいや唐の国では蝙蝠ってやつは縁起が良いそうで
字ぃが福に似てるからだって訳だが先代が付けた店の名前も福屋だよ
それに見てくださいこの蝙蝠こんな真っ白で神々しい
ほら納まった提灯もど真ん中
右から数えても左から数えても八番目って末広がりでまぁ
縁起の良い話の塊じゃぁないですか

客の雰囲気を察し口八丁にするすると飛び出した言葉は
それでも男の本心で
これは幸先良いと真ん中の提灯は蝙蝠に譲り火を灯さない事にした

男の人柄か蝙蝠の御利益か
日暮れの茶屋は旅人の話題となり
「大人のみたらし膳」食べたさに一晩泊まりの需要も増え
小さな集落は小さな宿場町となった

そこそこ美味いみたらし団子でそこそこ繁盛した福屋の店主は
父が没した同じ齢でそこそこ幸福だった人生を終えるまで
提灯に住み着いた真っ白い蝙蝠を大切に大切に愛でたという

跡取りのいない福屋は終に空家となってしまったが
軒下真ん中の提灯は蝙蝠の寝床に変わりなく
夕まづめ目覚めた蝙蝠が山へ向かって飛び立つと
静かにふっと灯りが点り
朝方寝床に戻る頃に灯りが消えるを繰り返す

男の魂は今も変わらず蝙蝠を愛でているようだ








そこそこに幸せな人生で終わりたい
がむばろうね皆

あ、提灯彫ります





六面図
おわかりいただけただろうか
銘の象嵌パーツに蝙蝠が飛んでいる事を





今回根付単体で全然自立するやつなんだけど
真鍮削り出しで提灯のツルを作りまして
だってほら提灯なんだからぶら提げたいじゃない?
ツルを立てるとこんな感じですが
基部にはやや渋めの引掛りを持たせパタパタ動かない様にして
微妙にセンターずれているのでこれ以上前方には倒れません
無理に倒すと壊れます
根付で使うときは後方に倒しておきましょう





根付「白うかり」の時には
水平二連同径紐穴は好きでないとか言ってましたけど
だんだん好きになって行く自分に気付く今日この頃
紐穴の位置低めだけど紐の二点二か所で接地するので安定するっぽい
2.5mmのアジアンコードがジャストフィットする穴径です





ぴゃーっ
幸せの白い蝙蝠♪
蝙蝠様を無限にうりゃうりゃしたくなる根付だよ♪
蝙蝠パーツは開口部より外に出て来ない安心設計





根付袋は提灯とヤカンが化けたやつ





サイズはこんなで





福屋の店主の魂宿したか
根付「福屋の提灯」完成です

そこそこ幸せって

ほんと

そこそこ大事

そこそこ





とか言いつつ次の根付は邪神のやつなのな





2022/07/13

根付 其ノ佰陸拾漆

『 白うかり 』
素材:鹿角、真鍮、黒水牛角



其々に名前が添えられた妖怪の姿が
まるで図鑑のように一妖ずつ描かれている松井文庫版「百鬼夜行絵巻」
wiki によりますとその冒頭には行灯を取り囲む人々が描かれているそうで

これってもしかして

丑三つ時
行灯の灯りを囲んだ人々が絵巻から一人一妖を其々選び
妖怪話を創作して聞かせ合う

というゲームブック「百鬼夜行絵巻」のチュートリアル
として描かれているんじゃないの?
とテンション爆上がり!

それならばと

至水は白うかりをチョイスして
チュートリアルに従い創作百鬼夜行絵巻夜話と共に
白うかりを根付化です





至水妄想奇譚

百鬼夜行絵巻夜話 其ノ一

「Ukkari beach in 2022 summer」

某都立高校に通う二人のJK
白井ユカリ と 乙路シオリ
「感染症対策です!」と真面目に自粛を続け
中3高1と二度も棒に振った夏の青春を今年こそは満喫する
そう誓い新調した真白なビキニは
海開きに間に合わせるべく
チーフに無理言ってバイトのシフトを倍にしてもらい
突貫貯金で購入した Sa-Recovwe 2022年夏の新作だ

下北沢駅南口前

     ユカリ「ごめんっ!」

     シオリ「ちょっとーどんだけ遅刻してんのよー」

     ユカリ「家出る時玄関にスマホ忘れて取りに戻ったw」

     シオリ「ずっと着拒だしさーLINEくらい返せんじゃん」
        「もー何してんのよー」

     ユカリ「うっかり八兵衛です」

     シオリ「何それーwww」

     ユカリ「水戸こーもん知らないのー?」

     シオリ「知らんしーウケる―www」

     ユカリ「いや」

「実はさ…」

一週間前

夜入浴中
週末に敢行する江の島海水浴場日帰りJK二人旅に備え
自粛期間中は御座なりにしていたムダ毛処理は念入りにと
脛を剃り終え次は脇
バスミラーに向かい肘を上げ
湯気の曇りを拭うと何やら隅に消えない靄が残る

良く見るとそれは湯気の曇りではなく
脇越しに映り込んだ白い…人影?

とっさに振り向くが何もなく
何だ気のせいかとシェーバーを置きシャワーを浴びてバスルームを出た

翌日

夜入浴中
今年の夏は入浴時のムダ毛処理をルーティーン化します!と意気込んで
今日もまた脛を剃り終え次は脇
バスミラーの曇りを拭い肘を上げると其処には未処理の剛毛
そうだ結局昨日は剃らずじまいだったのかと気付かされると同時に
昨日同様隅に残る消えない靄が

いやそれはやはり靄ではなく脇越しに写り込んだ白い…人影?
良く見るとそれは明らかに人影で

動いた

すぐさま振り向くが何もなく
やはり気のせいかとシェーバーを置きシャワーを浴びてバスルームを出た

バスミラーに写り込む白い人影現象は週末まで続いたが
深く考えないのがユカリの良い所

遂に江の島海水浴場日帰りJK二人旅当日の朝
出かける準備は万端で
家からビーサンつっかけて行くもんねと気合いれ
さあ最終チェックと玄関の姿見に向くと肩越しに映る白い人影?

いや

人ではない

頭頂部に突起を残し水平に削ぎ落されたような頭
赤らんだ目元いっぱいに見開かれた鈍く光る黄金の目
鼠のような髭と口角から漏れる牙…

白い異形の姿がはっきりと見え
目が合った

さすがに悪寒が全身を巡り手にしたスマホを落としてしまい
振り向けば何かとんでもない事が起きる気がして目を逸らせない
すると白い何かは にこり と口角を上げ すっ と消えた

いってきまーす!

咄嗟に全て忘れる勢いの大声で家を飛び出し最寄り駅
スマホが無い事に気付いたのは改札前で
いやだなーこわいなー
と、それでも急ぎ家に戻る事に

家に着き恐る恐る玄関のドアをそーっと開けると
やはり落としたスマホが見えた

ドアの隙間手を伸ばし
拾った瞬間再びダッシュで駅へと向かい
電車に飛び乗ったが既に予定より40分遅れで
這う這うの体で下北沢駅に着き
待ち合わせ場所の南口前にある…

ユカリ「…こいぬの木が見えてホッとしたのホントごめんねー」

江の島までの道すがら延々と聞かされた
この一週間に起きた「怪奇白いバケモノの恐怖」は
ビーチの貸更衣室で漸く終劇を迎えた

シオリは遅刻の言い訳にしては盛りすぎだと呆れ顔で聞き流し
水着に着替えた二人がビーチに飛び出すと
ギラギラと照りつける太陽光に思わず

きーもちいーねー♪

と両手を広げ伸びをしたユカリの脇にサラサラと潮風にそよぐ剛毛

剛毛っ?

脳内にこの一週間続いたバスルームの出来事が高速でフラッシュバックする

ユカリ「ヤッバ…結局ワキ…処理してなかったん?…だ」

ゆっくりと両腕を下ろすユカリの頬に汗が伝う
太陽が熱いからではない
冷や汗である

シオリ「このあとどーすんのよコレうっかり八兵衛ぇ…」

バイブス爆下がりな二人の後方少し離れたビーチパラソルの下で
両脇から顔をのぞかせる茜色の剛毛を靡かせながら
白うかりは静かな笑顔でユカリの夏を見守っていた








自粛自粛のコロナ禍に奪われた青春を取り戻そうと魂燃やすJKの物語ですよ

で白うかりって何なのよ?目的は?って言われても

「そうしたかったから」

なのかなぁ…

それが妖怪なのではないのかなっ

では白うかり彫りますね





六面図
細マッチョにしちゃったよね





両脇から顔をのぞかせる茜色の剛毛を靡かせながらサラサラ~





あーバックショットカッコいい
関節曲がってはいけない方に曲がってるけど
脱臼じゃないと思う





くわーっ
頭頂部の突起でツボ押し出来ます実用的!
物語の終盤ビーチパラソルの下にいたのは
白い肌を日に焼きたくなかったかららしい





今回全然自立しないので
というか端から自立させる気が無かったので台座も製作

台座にある支持突起を
頭に近い方の紐穴に嵌めるようにすると
根付で使用した際の正位置を取る
根付ポジション

足に近い方の紐穴に嵌めるようにすると
提げで使用した際の見え方
提げポジション
で二通りの設置が出来ます





至水は紐穴に根付紐の結玉がすっぽり収まる仕様が好きなのだけど
色々考え水平二連同径紐穴解禁
これはこれでまた良いなと思いました
印籠サイズの小ぶりな提物向けです





こんな感じで提げとしてもいけます





根付袋は妖怪札の白地バージョンを縫い縫い





サイズはこんな感じで小ぶり





コロナ禍に翻弄されたJK達をそっと見守る
根付「白うかり」完成です

「百鬼夜行絵巻」はゲームブック
って考えると
描かれている順番に割り当てられた妖怪話をしていったり
回り順番に好きな妖怪、話を作りやすそうな妖怪とか好みで選んで
えー「あすこここ」しか残ってねーじゃーん!とか
色んなローカルルールがあったんじゃね?とかとか
もうワクワクが止まらなくなったので

このフォーマットで松井文庫版「百鬼夜行絵巻」を根付化したい

百鬼夜行絵巻夜話はシリーズ化決定です
もう其ノ一って書いちゃってるし

皆も「百鬼夜行絵巻」で妖怪百物語やってみて!

最期に灯りを吹き消して

何かが見えたら…



にがわらい