素材:鹿角、黒水牛角
それでは早速至水の2022年夏のグループ展出展作品公開始めます
テキスト長いんで前置き短く
行ってみよー
至水妄想奇譚
「金糸雀ハ鳴キ止マズ」
人類の発現時より大気中に休眠状態で浮遊する「魔」と呼ばれる存在は
人間には感知出来ない無味無臭の不可視体故に
意図せず接触してしまう事による霊障が発生する
不幸にも 魔 に接触してしまったならば
どれだけ善良な人間であったとしても心を邪気に支配され
必ず悪行を成してしまうのだが
この現象は「魔が刺す」と形容され
通常は一過性であるため不介入霊障に位置付けられている
しかし例外がある
魔は信心深く得の高い清らかな人間を感知すると瞬時に休眠を解き
受肉を目的とした能動的接触を執拗に試みるのだ
その接触により引き起こされる「魔の受肉顕現」は
最上位霊障として特務僧兵対応事案となる
1783.08.13 14:06
日ノ本に於ける霊象の全てを監視すべく
倫辠宗京都大本山冥深寺主導のもと創設された遠隔霊象感知衆「天眼」
所属する最高位霊象走査班「五猿」は
天明参年葉月拾参日未の刻
蝦夷地松前藩内の極所に爆発的な霊圧増大事象を観測
遠隔走査ではあり得ない膨大な霊波流入に耐えきれず
五猿の構成員中「不視」「不聴」「不嗅」「不触」の4名が殉職
残る1名「不喋」もまた重度の精神侵蝕により意識混濁
全身不随に至るも
限界発動された自動書記により判明した霊象特異点の情報は
すぐさま松前藩領地対策寺院である鳳道寺へ念話共有され
即時対応を求められた統括高僧 宝誌和尚は
特務規定により20名から成る斥候班を編制し現地へ向かわせた
1783.08.14 14:59
霊象の発現地とされるその村は人の気配無く
夏のうだるような暑さのなか重く淀んだ邪気に満ちていた
斥候班のリーダーに任命された特務僧兵主任僧長「長我部」は
五猿によって得られた現地残留思念の解析情報を脳内で反芻していた
一昨日
村外れの小さな集落に有る古寺で執り行われた村の長の葬儀終盤
和尚が説法を始めたのを皮切りに
参列していた村人達が一斉に殺し合いを始めたらしい
所謂「魔が刺す」というやつか
しかし余程邪な精神状態でない限り
殺人欲求の発露に至る事など無いのだが
しかも50人もの人間が
同時に?…
魔 による霊障の連鎖が爆発的な霊象として五猿に感知されたのだろうか
全ては特異点に辿り着けば明らかになる筈だ
村に侵入した斥候班はツーマンセルの10チームに別れ
其々が霊圧の低い地点を探り浄化ブイを設置しつつ
執拗に繰り返される 魔 の精神侵食に抗いながら
特異点である古寺へ通ずるルートを模索する
これが特に霊的感受性の強い僧兵ばかりを選出し編制された
斥候班「金糸雀」の任務であり
十数日後には蝦夷地に到着するであろう大本山の霊象封殺班本体が
可能な限り精神侵食を免れ特異点に到達するために
身を挺して完遂せねばならない責務であった
捨て駒なのだ
1783.08.14 18:00
徳の高い僧兵は恰好の受肉素材である
大気中に溢れる夥しい数の 魔 による絶え間ない精神侵蝕に抗い
息も絶え絶えな長我部は
特異点まであと10m足らずの地点まで辿り着くも
自分とバディを組ませた最年少の特務僧兵「禊谷」以外の
斥候班メンバーの気配を一時程前から全く感知出来ておらず
この状況
皆既に 魔 の贄と成り果てたのだろうと漸く事態を呑み込んだ刹那
不意に芽生えた恐怖に信心が揺らぎ
自らの精神の綻びを察した長我部は
「僧兵行動規定第一条第一項…解るな?」
と禊谷に問い介錯を委ねた
「魔に刺されし者は受肉に至る間に速やかに斬首すべし」
事も無く諳んじる禊谷を凝視する長我部は
今更ながらその違和感に気付く
禊谷から感知出来る精神の波は穏やかに凪ぎ
息一つ乱していない…
「禊谷お前」
次の瞬間
致命的な 魔 の精神侵蝕を許した長我部の額が正中に割れ
受肉した魔が歓喜の産声を上げ…ると同時に
喉元に触れた禊谷の独鈷杵が
長我部の側を脱ぎきらぬままの 魔 の首を斬り落とした
「てめぇっ!これっぽっちの信心も無ぇただの人間如きがっ!」
「なんで法具をっ!なんで俺の首掻っ切れるっ!」
禊谷は喚き散らす崩壊間際の 魔 の生首を一瞥し
慣れた手つきで独鈷杵に付着した血を払いながら
「あぁ、これね、僕は元々ここの宗派の堂衆じゃないんだ」
「色々あってさ…」
と独り言のように答えると
崩れ出した 魔 の耳元に顔を近付け小声で囁いた
「あとさ、僕の事感知出来なかったでしょう?」
確かに受肉を狙い精神侵食を仕掛けるまで
魔 の知覚野には長我部しか捕捉出来ていなかった
「だって僕はね、神も仏も信じちゃいないの」
「信心なんてないんだ」
「君等は人間の信心にしか食指が動かないってのは知ってる」
「だから徳の高い僧兵に混じってるとさ…」
「見えないんだよね?僕の事」
受肉体消滅の断末魔を聞きながら二ヤリと背を向ければ
視線の先には 魔 の受肉顕現の贄となり人外へと変わり果てた斥候班18人が
古寺に吸い寄せられるように集まり
本堂からどろどろと這い出した巨大な腐肉塊に飲み込まれていくのが見える
それが爆発的な霊障の連鎖を引き起こさせた元凶
村の住職を贄に受肉顕現し
更に禍々しく肥大し続ける 魔 の姿であった
「こんな邪な奴はサクッと屠っちゃうよ」
「僕はいっぱい功徳を積まなきゃならないんだ」
「僕を牢から解放してくれた宝誌和尚に報いるためにね」
数々の破戒を重ね深権衆大本山を破門の末
魑魅魍魎が跋扈する蝦夷地に於いて今もなお松前藩が管理し続ける鬼岩牢へ
若くして幽閉される身となった過去を持つ一級の霊象封殺僧兵
「禊谷戒真」
魔殺神「首刈ノ童子」の魂を宿す一人目の転生者である
1783.08.14 18:20
五猿が壊滅し翌日
日ノ本に於ける霊象の全てを監視する責務を継続すべく
急遽遠隔霊象感知任務を引き継いだ霊象走査僧兵「千里眼」は
天明参年葉月拾肆日卯の刻
蝦夷地で発現後増大し続けていた霊象特異点の消失を観測した
終劇
※作中に記された宗派、寺社名、地名は実在するものと一切関わりは無く
史実もまた異相な平行世界の物語です
長い!
長いねー長文まいったね
はい
という事で
これだけ書いたストーリーで根付化するのは
魔殺神と化した主人公一級の霊象封殺僧兵「禊谷戒真」
ではなく
最悪な霊象を引き起こした大ボス魔
でもなく
僧兵行動規定第一条第一項
「魔に刺されし者は受肉に至る間に速やかに斬首すべし」
を
宝誌和尚立像をモチーフに
「長我部を贄に受肉した魔の斬り落とされた生首」
として根付化します
名も無き物の怪
モブキャラです
今回とにかく大きく顔面彫りたいなってとこから始まって
彫りながら色々設定積み上がって行く流れなんだけど
根付作品には直接関係ない
中二臭溢れて滾りまくる設定とかいっぱいあって
五猿メンバーや千里眼のバックグラウンドとか
禊谷が深権衆系の寺に拾われた幼少期の諸々とか
宝誌和尚の意図とか
鬼岩牢とは何かとかとか
長すぎるので端折りますけど
物語を妄想するのはやはり楽しい
さて今回の「勿怪の幸い」第三集は
1作家につき根付1点と提げ1点
という出展枠制限がありまして
次はもう一つの出展作
紅いアイツの提げをブログ投稿です
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