2024/02/23

Small articles : No.040

提げ 『 家猫 』
素材:鹿角、黒水牛角



もう何年も前に依頼されていた猫の提げの制作がやっと完遂
家猫と書いて「うちのこ」読みます





至水妄想奇譚

『うちのこ』


根津にある和小物を専門に取り扱うGalleryでは
月に一度誰かしらの個展が開催されていて
今月は誰の個展だったろう?
と開催告知のダイレクトメールを確認すると今日が会期最終日
天気も良いし
唐揚げも食べたいし
久しぶりに行ってみようかと家を出た

東京メトロ根津駅下車
根津交差点前出口の階段を上り地上に出る

「ほんと根津に来たの久しぶりだわ」

右を向けば横断歩道の向こう側
交差点の角にはGalleryに来た後に必ず立ち寄る唐揚げ屋が…
無い…
「とり多津」の看板が「メンチの鉄人」に変わっている

「えー閉店しちゃったの?紅生姜唐揚げ食べたかったのに…」

意気消沈しながら横断歩道を渡り
一本目の路地を右に曲がると数メートル先左手に
Galleryのウェルカムボードが見えた

場所が分かりづらいで有名なGalleryだけど
それは地図を読む努力が足りませんって事だぞ
なんてしたり顔で思いつつ
以前と変わらないこの路地の景色に内心ほっとする

ひとしきり展示作品を観覧し
御無沙汰していたGalleryスタッフのK塚氏と談笑中
随分前に制作を依頼していた猫の提げの事を思い出した

気が乗らないとなかなか制作を始めないうえ
写実を得意としない妖怪ばかり彫ってしまうあの根付作家に
うちの子をモデルにと依頼したからだろうか全く音沙汰が無い

早速根付担当スタッフのH本氏に作品制作の進捗状況を尋ねてみると
「作家に確認して御連絡させていただきます」
と予想通りの返答に

「時間掛かっても構いませんので」
と半ば諦めの笑顔でGalleryを後にした

帰りの地下鉄に揺られながら
うちの子の思い出が止め処なく溢れ出る

クシャっと潰れ顔が最高にプリティなエキゾチック…
何年も前に虹の橋を渡り星になったうちの子…
私にとってどれだけ大切な存在だったか…
あの子を感じられるものを手元においておきたかった…
提げになって家へ帰って来るのは何時になるのやら…

ぐるぐると思い巡らすうちに
危うく自宅の最寄り駅を乗り過ごしかけ
慌てて下車し階段を上り地上に出ると
ビルの隙間から空高く伸びる大きな大きな虹が見えた

今日は雨の予報じゃ無かったけどスコール的なの降ったかな?

道路全然濡れてないけど?

それにしても虹大きすぎだしこんな真下から見た事あったかな?

うちの子とお別れした日も雨上がりでこんな虹が見えたっけ…

「虹の橋かぁ…」

頭上の虹を見上げながら歩いているといつの間にか自宅前
虹の橋はまるで巨大な橋台の如き自宅マンションの屋上に繋がっていた

何だろう…
胸騒ぎがする

足早にエントランスを抜けエレベーターに乗り
6Fのボタンを連打してしまう

止まらない胸騒ぎに高揚し6Fで開いたドアから勢いよく飛び出すと
廊下の突き当り自室ドアの前に猫がいる

え?

お座り…
でなく胡坐で

えっ?えっ?

こちらに振り向き片手を挙げてニャッと挨拶するその表情は
クシャっと潰れ顔が最高にプリティなエキゾチック

うちの子だ…

帰って来た!

溢れる涙に霞む目を拭いながら駆け寄ると
うちの子がいた筈の場所には置配された荷物がぽつんとあるだけで
猫の姿は消えていた

「帰って来るとか…無いかぁ…」

苦笑いで拾い上げた荷物の送り状を見ると
発送元住所は北海道函館市
送り主は鈴木…って
あの根付作家なんで直接送って来てんの?
慌てて部屋に入り段ボール箱を引きちぎるように開梱すると
中には緩衝材に塗れた小さな木箱が一つ入っている

箱書きの文字は相変わらず下手くそで
よせばいいのに長い作品名は…
判読が…

「あーもう後にしよ」

そそくさと共箱を開けると中には
クシャっと潰れ顔が最高にプリティなエキゾチックの猫の提げが
いや…
尾が二股に…

「猫又っ?」

あの根付作家相変わらず猫は猫又にしちゃうのねと笑いながら
涙目で共箱の蓋に書かれた作品名を改めて判読してみると

「虹の橋を駆け戻って来たうちの子が猫又に成っていた件」

うちの子が帰って来てくれた

猫又だけど(笑)








追伸
Galleryの帰り試しに寄ってみた「メンチの鉄人」には
何故か紅生姜唐揚げがあったので(系列店?)
テイクアウトした「とり多津唐揚げ弁当」を食べながら
猫又に成ったうちの子を愛でています





※作中に記された各名称は実在するものと一切関わりは無く
史実もまた異相な平行世界の物語です





という事でですね
本当にお待たせしすぎてしまい申し訳なさすぎの猫又は
こんな感じなのです御覧あれ





六面図





貫禄漂うぽっちゃりベイビーボディ





こちらに振り向き片手を挙げてニャッと挨拶するうちの子





猫又化とは…





よせばいいのに判読拒否したくなる事請け合いな
長い作品名がしたためられた共箱がこちら
箱書き拙いっ!





尾のループに紐を通す仕様
提げるとこんな感じです
キリッ





猫又に成って帰って来ましたニャッ
提げ「家猫」完成です

本当は昨日2月22日に公開出来ていれば
ニャンニャンニャンの猫の日で
タイムリーにミラクルなブログ記事になっていたのですが無念です
しかし確か2月23日は
ニャンニャンミャーオで猫の日エクステンデッドなのだと
聞いた事があったり無かったりなので本日更新出来たのも大成功な筈…

そしてもう一つ同時進行で完成している猫又がおりまして
(次はそ奴のブログ投稿になります)
二猫又揃って御依頼頂いたお客様の元へ収まる事となりました
本当に長く長くお待ち頂き申し訳なく
ありがとうございました



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