2025/07/29

根付 其ノ弐佰参

『 カガミガミ 』
素材:エルフォリン、黒水牛角



半年ぶりくらいの更新ですか?…
介護離職的状況に日々忙殺される至水ですお久しぶりです
それでもちまちまちまちまちまちま進めていた根付
どうにか完成しまして公開です





至水妄想奇譚

「回心ノ一撃」


私の両親の家には神棚がある

萎れたヒバを交換し
「米」「塩」「水」と「カップ酒」を供え蝋燭に火を灯すと
やけに畏まった二拝二拍手一拝で締めくくる
これが毎月1日の朝に行われる父の神棚お参りルーティン

お参りの作法なぞ全くもってなっちゃいないのだけれど
50数年前に父が実家の精肉店から独立し
新たに鮮魚販売業を始めた際に購入したもので
部屋の天井近くから
我々家族の諸々を日々眺め続けてきた古い神棚なのだ

しかし思い返すと
「神棚がある」が当たり前の家で育ったにも関わらず
私は家の神棚をお参りした事がない

そのくらいの信心の無さで
神仏を否定する訳ではないものの
妻の実家に神棚は無かったと言うし
友人に聞いても家には無かったという者が少なくないので
隣でやけに畏まった二拝二拍手一拝を終えたばかりの父に
何故家に神棚を祀ろうと思ったのかを尋ねてみると
えっ?と短く考え出てきた答えは
祖父の経営する精肉店兼住居にも神棚があったから…という
商売を営む家に神棚は付き物なのだろうなと
なんとなく腑に落とし改めて家の神棚を眺めていると
ふと中央に設置された神鏡の違和感に気付く

幼い頃に「神様の鏡をピカピカにしよう」と力いっぱい磨いた結果
鏡面のメッキが傷付き曇り
何も映らない丸い鋳物板にしてしまった筈の神鏡に
私の顔が映り込んでいる…

いや

いやいやいや…

私の顔ではない

私の顔ではない鏡の顔はニタリと笑顔を歪ませながら
神鏡の裏から生え出た人の形をした何かが
二本の腕で神鏡の側面を鷲掴むとやおら台座から立ち上がり
神棚の奥に納められた お神札に振り返った一瞬
人の形の背中に纏わりついた長い毛髪の下から
乱雑に垂れ下がる紙垂が見えた

どうやら八百万の一柱には違いないらしい
しかし歳神様の様な威厳も
恵比寿様や大黒様の様な馴染みも全くない姿
これは何かしらの彷徨神が家の神棚の神鏡に憑いてしまったのだろうか…
等とこの不可思議な状況に考察を巡らすうち
神棚の中をひとしきり散策なされた鏡の顔の神様は
神鏡の台座の上にドッカと腰を下ろすと
お供えの塩と米粒を肴にカップ酒を啜り始めた

これから先この鏡の顔の神様をお祀りする事になるのか…?

するとほろ酔いの鏡の顔の神様は私を見下ろし
こ ん ご と も  よ ろ し く ・・・
と 軽く会釈した

どうやら隣にいる父には鏡の顔の神様が見えていないようだが
実体を持った神からの挨拶は私の信心を芽吹かせる会心の一撃となり
神棚に向かい思わず人生初の二拝二拍手一拝を披露する

そんな私の姿を目の当たりにして
父の目が点になっていた…







※作中に記された各名称は実在するものと一切関わりは無く
史実もまた異相な平行世界の物語です





という事でですね
神にも縋りたくなる気持ち
なんだかコロナ騒動以降ずっとそんな感じかも

鏡の顔の神様の顕現はどうか吉兆でありますようにと願いつつ

こんな感じです





六面図





何も映らない筈の神鏡に映った顔はぐにぐにと蠢きながら
立体になったり鏡面に溶け込んでいったり





今回の素材はエルフォリン
根付の素材として全然アリ
ありありのアリだと思うのです
なんとなく今だ手探り状態ですが
エルフォリンについての雑感とか
改めて投稿したいと思ってます





カガミガミ様…
回心 ♡





身体から湧き出し垂れさがる幾つもの紙垂は八百万の証
元々「何か」の神だった彷徨神は物憑きが叶うと神替わりし
実体を伴った八百万と成る
そんなお話
創作ですよ妄想です





今回は珍しく染めは無し
瞳の光彩のとこに墨入れしたのみ
(こんな染めないの初めてかも)
地色がアイボリーのエルフォリンを使用しているので
「乳白色」ミルキーな色味になっています





フグリは良い…
根付彫刻家の中でこんな沢山キャンタマ彫ってる人いないのではないか
という自負
玉自負





紐通しはこんな感じ結玉スッポリタイプ





このくらいのサイズ感





いい感じに酔いが回りはじめた鏡の顔の神様♪
根付「カガミガミ」完成です

あれです
メガテン、女神転生シリーズはね
1作目の「デジタル・デビル物語 女神転生」
その次に「真・女神転生」
ゲームギアで「女神転生外伝 ラストバイブル」
DSで「真・女神転生 STRANGE JOURNEY」
の4作品弄ってるんだけど
毎回毎回
悪魔合体の組み合わせを全て試したくなっちゃって
悪魔合体ばかりやっちゃって
全然先に進めなくなっちゃって
結局ひとつもクリアしていないという…

こ ん ご と も  よ ろ し く ・・・




2025/01/25

根付 其ノ弐佰弐

『 巳猫 』
素材:鹿角、黒水牛角、珊瑚



2025年
とっくにあけてますけども
珍しく今年は年初めから干支ものに着手しまして
無事完成させましたおめでたい

干支もので新年の御挨拶投稿が出来るという奇跡を噛み締めつつ
今年もよろしくおねがいいたします





至水妄想奇譚

「スネーキーミャンキー蛇拳」

毎年の大晦日におせちを作ってくれていた母は不在となり
まるで正月感の無い新年を迎える事となった根付彫刻家至水
それでも正月に餅を食べたくなるのは抗いようのない日本人の本能なので
早朝から鍋いっぱいに醤油ベースの雑煮を作りつつ
オーブントースターで餅を焼きながら
紅白の蒲鉾と伊達巻を切り分け
フジッコの黒豆が山盛りになった小鉢
皿に盛り付けた貰い物の数の子に鰹節を振り居間のテーブルに並べると
2025年の元旦にも辛うじて正月の雰囲気が漂い出した

キッチンで鍋の火加減を見ながら三つ葉を刻んでいると
何やらボッボボッという聞き覚えのある風切り音に気付く
音を辿り居間を覗いてみると
TV画面に映し出されていたのは
力強い蛇拳の演舞を披露するジャッキー・チェンの姿

あぁ「スネーキーモンキー蛇拳」かぁ
小学生の頃 母に連れられて観に行ったんだ
モンキーパンチが描いたポスターがメチャクチャ格好良くってね
公開館は巴座か…映劇?いやスカラ座だったっけ?
どの映画館も随分前に閉館してしまったけど…

風切り音の正体は
蛇形手が空を切る度に発せられる過剰なまでのサウンドエフェクトであると
分かった途端数十年前の記憶が懐かしく思い出された

あれ?

朝食の準備をしている間
テレ東で放送中の正月特番「孤独のグルメお正月SP」を
ながら見していた筈なのだが
「スネーキーモンキー蛇拳」に変わっている
いつの間に…

どうやら
TVに接続したHDDに撮り溜めていた午後ローのアーカイブの中から
ジャッキー・チェン主演のカンフー映画
「スネーキーモンキー蛇拳」が再生されているようだが
TVの前にはリモコン片手に夢中になって観ている猫又が一匹
これは昨年末から家で同居をし始めた此奴の仕業に違いない
蛇形派の宿敵である鷹爪派の大ボス上官逸雲との最終対決で
劣勢のジャッキーが我流の猫爪拳に勝機を見いだすクライマックスが
猫的には最高に胸アツらしく
生涯ベストの映画なのだと何度聞かされた事か…

因みにこの猫又
元は家の近所を縄張りとする地域猫だったのだ

見かければ餌をくれてやる程度の付き合いだったが
昨年の秋頃から見かけなくなり
これも野良の運命かと寂しく思っていた矢先
12月初旬の寒さに耐えかねたと思しき猫又が
突然家に転がり込んで来た

その右耳には見覚えのあるV字カット
地域猫の印だ
そうかあの猫…猫又に…と腑に落ちた

猫生を終えた経緯はどうであれ
現世への執着か何の意味もない気まぐれか
無邪気に虹の橋を駆け戻ってきてしまう転生型の猫又に
なんとも言えぬ情が湧いてしまい
これも何かの縁であろうと
家猫又として同居を許した猫又なのだ

我が家に居座るようになってから何度も何度も観返す程に
うちの猫又にとって「スネーキーモンキー蛇拳」は
特別なお気に入り映画である事は解るものの

「とは言え元日の朝っぱらから観る映画かね」

と思わず声をかけてしまった

しまった…

するとこちらを振り向きニヤリと口角を上げた猫又の右手には
干支もの根付の資料として仕入れたヘビのパペットが装着されており
私に向けパペットの口をパクパクさせながら
うろ覚えな猫形蛇拳の型を得意気に披露し始める

嗚呼…また始まってしまったかと冷ややかな眼で見ていると
旋風脚よろしく回転した長い尻尾がテーブルの上の小鉢にクリーンヒット
フジッコの黒豆が見事に飛び散った

鬼は外 福は内ですか?
節分は来月ですけどもう豆蒔きます?
なんで正月早々朝っぱらから黒い御豆が散乱する床の掃除をせにゃならん?

沸々と湧き上がる怒り…

しかし私のアンガーマネジメントは完璧だった

猫又よ
ヘビのパペットを装着したその絵面
ジャッキーというよりもサンティーノ・マレラですよ

「コーブラー」
「コーブラー」
「コーブラー」
「コーブラー」
「コーブラー」

脳内で瞬時に展開される2019年8.30 DDT新木場大会
アントーニオ本多 vs サンティーノ・マレラのシングルマッチ

アントーニオ本多のごんぎつねもコブラに完封されたっけなぁ…

などと回想している間に6秒ルールが遂行され見事心が凪いだ刹那
突如悲鳴をあげ飛び上がる猫又

よく見ると
成る程トグロを巻いた尻尾の先の方
まるで蛇の眼のように見える位置に引っ付いた二粒の黒豆が
奇跡のシミュラクラ効果をもたらしているではないか素晴らしい

不意に足元の視界に飛び込んできた自分の尻尾を蛇に見間違えた恐怖に
猫又の絶叫が止まらない止まらない

そして巳年の干支もの根付の意匠が閃いた

プププとほくそ笑みながら

「今年の干支もの根付の意匠は君に決定しましたよ」

と自分の尻尾から逃げるように跳ね続ける猫又に告げ
ぷっくりと焼き上がった餅を入れた雑煮をテーブルに運ぶ

なんとなく
良い年の始まりだなと思える元旦であった








※作中に記された各名称は実在するものと一切関わりは無く
史実もまた異相な平行世界の物語です





という事で
黒豆が散乱した床の掃除は猫又にやらせまして
蛇だし猫だしで結局今年の元旦っぽい出だしで良いですね

ではうちの猫又を御覧いただきましょう
こんな奴なのです





六面図





ミ゛ャーッ
いいところに黒豆引っ付いてますね
へびっぽい へびっぽいぞ





へびっ!?
蛇の舌は猫又の幻視です
自分の尻尾を蛇と思い込んでしまった彼にはこう見えちゃってるという





こちらが
「干支もの根付の資料として仕入れたヘビのパペット」
の現物
現物はウロコカラーなのですが
根付化の際にレッドアイと白肌の紅白で
無駄に縁起の良いアルビノな改変をしています
正月なので





銘は浮き彫るとリッチだなぁ





ふぐりは良いねぇ良いものだ
今回つんこも象嵌してみました
おわかりいただけただろうか





珍しく紐穴彫らーず
紐通しはこちらです





全長81㎜久々に大きいの彫った
故に紐穴はあの位置(低めの位置)なのだ





干支ものであけましておめでとうございます
根付「巳猫」完成です

なんとなく2025年の出だしは良いような…

そんな今年の目標は「現状維持」です

消極的な目標っぽいですが
昨年はとにかく色々大変でしたので
これ以上悪くなってくれるな
悪くらなければ御の字と
そんな願いを込めての

✨現状維持✨

かさねがさね
今年もよろしくお願いいたします



2024/12/31

根付 其ノ佰玖拾玖

『 三目抜首 』
素材:鹿角、黒水牛角



今年もあと数時間を残すのみというこのタイミングで唐突に
大晦日とか全く微塵も関係のない
今年九月に制作した作品のブログ投稿ですが

お気になさらずに





至水妄想奇譚

「化物婚礼絵巻」

人類の誕生より現在に至るまでの歴史と表裏一体に存在する
もう一つの世界で
人類同様の社会を形成し種の繁栄を謳歌する者達がいる

互いに能動的な干渉をする事のなかった二つの種はやがて邂逅し
人類は抗いようなく抱いてしまう畏怖の念から
その者達を「バケモノ」と呼び
一方的な忌避感から排斥の対象と見なし数百年が過ぎた現在
表裏一体互いに様々な問題を抱え生きる二つの種は
其々の社会の存続を懸け否が応でも在り方の変容を求められ
10年に及んだ共存権運動は二種共存共生法の制定という形で実を結んだ

更に内閣府は共生促進を加速させるべく
施行日である2024年9月吉日に合わせ
人間の新郎と化物の新婦による二種間初となる婚礼の儀を
法に基づき執り行うというプロパガンダ的イベントを急遽企画立案
婚礼の儀の一切を化物界随一の老舗冠婚葬祭業者である
祝ヒ事請負ヒ処「ミツメ屋」が取り仕切る事となった

1600年に裏江戸で創業した祝ヒ事請負ヒ処「ミツメ屋」には
腕っ扱きの賑やかし者達が多数在席し
宴席には欠かせぬ者材派遣業は大層繁盛していた

なかでも舞者「三目抜首」は
一間を超す長く長〜い首を巧みに操る「ろくろ舞」の創始者として
長寿祈願の意を込めた出産祝いや賀寿祝いに引っ張りだこ
裏江戸では知らぬ者無しの売れっ子賑やかし者である

その三目抜首に任された婚礼の儀最大の見せ場は
新郎新婦の末永い幸せを祈願しセッティングされたサプライズ
高さ2mを超える5段重ねのウェディングケーキの中
スタンバイする三目抜首がケーキ入刀のタイミングで勢い良く首を伸ばし
突き抜いた最上段のケーキを頭上に乗せたまま
首から上のみで演じるろくろ舞

繊細なバランス感覚を求められる大役でありながら
急遽企画された式の準備期間はたったの一週間
リハーサルの時間も取れず
当日ぶっつけ本番という慌ただしさで婚礼の儀当日を迎えた

残暑という言葉を忘却させる程に連日の猛暑が当たり前となった9月吉日
旧細川候爵邸 和敬塾本館の庭園にセッティングされた会場に
両家の親族及び関係者含め300人強が列席するなか
高砂の前に鎮座する5段重ねの巨大なウェディングケーキが一際目を引く

あぁ…
あっづい…
なんでこんなカンカン照りの御天道様の下でよぉ…
ガーデンウェディングやろうなんて考えたの…
どこの馬鹿野郎だこんちきしょうめ…

真っ暗で狭っ苦しい蒸風呂の如きウェディングケーキの中で
開場の一時間前からスタンバイしている汗だくの三目抜首は
尋常でない暑さに着物を脱ぎ捨て締め込み一丁
ケーキ入刀のタイミングを今か今かと待ちながら
口を衝いて出るぼやきが止まらない

すると朦朧とした意識の向こうから
例のベッタベタな台詞が聞こえた

「新郎新婦による初めての共同作業でございます」

今だっ

ケーキ入刀の発声と共に勢い良く伸ばした首が
ウェディングケーキ最上段を突き抜き…
の筈が
何の手違いか悪魔の悪戯か
最上段が分離する細工を施されていなかったのであろう
5段重ねのウェディングケーキが丸ごと土台から外れ宙を舞い
会場に生クリームの雨を降らせるなか
締め込み一丁半裸のバケモノが無心でろくろ舞を踊り続けるという…
正に阿鼻叫喚の地獄絵図となった婚礼の儀のライブ映像と共に
二種共存共生法施行開始のニュースは日本全国に伝えられ
会場の惨状とは裏腹に
国民全てが表裏一体な二つの世界が一つとなった未来に想いを馳せた

翌朝ミツメ屋の事務所では
実に満足気な様子の三目抜首が始末書を書いていた

意外にも前日のろくろ舞に確かな手応えを感じた彼の頭の中は
続けてオファーが来る筈の出産祝で披露する
ろくろ舞「初産の型」の事でいっぱいなのだ








※作中に記された各名称は実在するものと一切関わりは無く
史実もまた異相な平行世界の物語です





という事でですね
売れっ子賑やかしモノとしてのプライドをもって
地獄絵図のなかベストを尽くした訳で

出産祝いのオファーが来るかは微妙ですが…





六面図





長ーい首を畳んでスタンバる三目抜首
そう先ずは何故此奴を彫ろうと思ったかの御話から
日課であります「ウェブの大海原で妖怪巡り」をしていると
いつもお世話になっております
三つ目で首が長い化物として掲載されている此奴が目にとまり
あー頬骨の下に目を配置すると強制的に困り顔になるんだ素敵と御気に入り
化物婚礼絵巻で描かれたものとあったので
家にある洋泉社MOOK「百鬼夜行と魑魅魍魎」で確認してみる事に
あー居ました
このMOOKに載っている鯖江本「化物婚礼絵巻」のなかの
「産ノ祝酒宴馳走図」で踊り狂う此奴
で此奴は一体…何?誰?となり
酒宴で馳走の図なのだから近所の方とか御親戚と見るのが
まぁ自然かなと思うものの
三味線を弾く猫面の化物とか
腹鼓を叩く狸モノなんかも描かれていて
これって楽器奏者とか踊り手とかを派遣する
宴席盛り上げ派遣業だったりしたら美味しいね
なんて思ってしまい
祝ヒ事請負ヒ「ミツメ屋」に所属する
売れっ子賑やかしモノ三目抜首
という設定をこじつけてしまうという
いつもの妄想なのでした





そして蒸風呂の如きウェディングケーキの中でスタンバる三目抜首が爆誕





締め込み一丁の尻はいいねキュッとね





紐通しはこんな感じ
胸の前にある首の間に結玉がスッポリ収まります





サイズはこんな感じで





請け負った仕事は必ずやり遂げる信頼の賑やかしモノ
根付「三目抜首」完成です

あー
もう2024年も終わりますね…




良いお年を♪