2018/03/17

根付 其ノ百拾弐

『 首提灯 』
素材:鹿角、黒水牛角



ストレートに

ホントどストレートに

ベタな提灯お化けなんぞを彫りましょかと

色々調べていたら「首提灯」という落語を知りまして



べろんべろんに酔っぱらった一人の江戸っ子
品川遊郭へと通じる夜道で侍に道を聞かれます

その言葉に訛りがある事に気付き
ナメて粋がった江戸っ子は
罵詈雑言を浴びせたうえ紋服に痰を吐きかけてしまい
怒り心頭の侍に首を斬られてしまいます

侍はその場を立ち去りますが
あまりに鮮やかな居合切りであった為か
首と胴体は繋がっていないのに歩き出し
歩く度に首がズレるのでやっと切断された事に気付きます

オロオロしていると突き当たりが火事で大混乱中
たまたま知っている家だったので火事見舞いに駆けつけ
受付で自分の首を突き出し

「ヘイ、八五郎でございます」



という噺

で、この落語の元になったのが
安永3年(1774)に刊行された「軽口五色帋」の中にある
「盗人の頓智」という小ばなしだそうで
こちらは
忍び込んだ泥棒が家主の反撃で首を斬られるも気付かず
外へ逃げ出ると暗闇で
咄嗟に提灯代わりに首をかざすという・・・

ほぉ・・・

この辺りが
歌川国芳の「神谷伊右エ門 於岩のばうこん」とか
葛飾北斎の『百物語』にある提灯姿の「お岩さん」とか
果ては江戸以後の草双紙等で世に親しまれていく
所謂「提灯お化け」の元ネタなのではと

そんな一人腑に落としながら

火事を出した家で火事見舞いに頂いた首を
何の疑問も無く提灯として使い続けていたら
こんなんなっちゃったね八五郎の首提灯

そんなの彫りますよ





鹿角で

彫り上がったヤツにヤシャ液筆塗りしてここから磨きます
一度写真撮って画像で見てみると
ココがなぁ・・・
とか言う所が見えて来ちゃうものなので
修正したりとかしつつ磨いたりとかの繰り返し





四面図
上からと下からの写真撮り忘れです(汗)
今回は自立しないのですがスタンド付きません
真鍮線をガイドにして立たせて撮影しまして
大変お見苦しうごめんなさい(泣)





「(元)八五郎でございますっ」





破れ提灯の裂け目から火焔がぼぅぼぅと漏れ出ちゃってます





ほらちゃんと上顎にも歯牙が
怪獣解剖図鑑的に言えば「八五郎歯」でしょうね





紐の結び玉は口中にすっぽり収まる仕様です





破れと間違われ修繕されてしまった左目とか
色々とフォトジェニック♪
(画像クリックすると拡大画像が開く筈きっと多分)





元ネタ(違うかなー?)からして相当シュールな提灯お化け
根付「首提灯」完成です

ホント元々どストレートな提灯お化けを彫ろうと思ったのです
でもそれ切っ掛けに色々と新しく知れたりするのが面白くて

そんな落語に詳しい人ではないですけど
この「つながったー!」感が気持ち良き事で

大変気持ち良き♪


いやぁ



春だなぁ・・・



2018/03/01

根付 其ノ百拾壱

『 聖蝕 』
素材:鹿角、黒檀



昨年11月に Gallery 花影抄で開催された道甫さんとの二人展の初日
DM にも使用した根付戦士なドワーフの根付を購入希望のお客様が
Gallery の前で開場を待って居られました

しかしドワーフだけは既に販売先が決まっており
並んで頂いたにも関わらず購入権の抽選すらされないという
とんでもなく申し訳ない事をしでかしまして・・・

これは2017年最期に残してきたモヤモヤに対するけじめとして
昨年末から製作に取り掛かったもう一つの戦士な根付のお話です





「聖蝕者」

HANAKAGE 王国を恐怖と混沌に陥れた元凶であり
城の地下深く構築された迷宮内に潜んでいるであろう
Lord of HANAKAGE "Shi Sui" を討伐すべく
精鋭揃いの近衛兵団から選抜された高位騎士のみで構成される
狂王討伐隊の初陣が送り込まれてから既に二年の月日がすぎていた



私が第十五次討伐隊の一員としてこの迷宮に足を踏み入れてから
どれだけの時間が経ったのか、何か月、いや何年か

迷宮内に湧く狂った獣を屠ってはその肉を喰らい
戦闘で装備が破損したならば
武装したデミヒューマンの集団を殲滅し
使えそうなものに交換しながら独り地下迷宮を生き抜いて来た

しかし唯一つ
初代 Lord of HANAKAGE "Shien Sui" より下賜されしアーティファクト
+10 Blessed Silver Short Sword "Belladonna"
数え切れぬ敵の肉を裂き骨を砕いても尚
刃毀れもせず鈍い光を放ち続けている
これだけは
狂王の首討ち落とすまで決して手放す事はないだろう



新しいフロアに降りるとそこは
両側の壁に小さな松明の灯が点々と配された細長い直廊であった

噂では地下迷宮の最深階層は100Fだとか
1フロア降りる毎 手甲に刻んだ傷は67本
疾うに中層を越えている

祝福の芳香を嗅ぎ付け今この瞬間 が現れたとて何の不思議もないが
薄明りの開けた視界故か不用意に歩を進めてしまった

瞬間右腕に激痛が走る

反射的に右手の小剣に眼をやると
刀身を搦め取った何かが柄を根本から撓ませ
右肘は容易く砕かれていた

「奴だ・・・」



不用意なプレイヤーの行動に溜息をつきながら
ゲームマスターは形式的に10面ダイスを二回振った

結局は "Belladonna" に付加されたエゴに助けられる事になるのだが・・・





というメタなストーリーから始まった
高位騎士=パラディンな根付の製作を決定するも
根付として成立させる為足掻きまくった二か月間

事の顛末をご覧あれ(涙)





鹿角です

パッと見「え?これパラディン?」てなりますよね
「過飾な位豪華なエングレイブを施された重鎧装備にロングソード」
やはりパラディンはそんなイメージじゃないですか?

しかし根付にするとなると例えば
兜にシャキーンとカッコいい羽飾りや突起なんか生やしたりはNGだし
ロングソードを丸い意匠の中に収めなきゃ等色々な壁がありまして

そこはもう
「人は見た目で判断しちゃダメよ」的設定で外観を補完する事に・・・





六面図

パラディンらしからぬ装備の件

高位騎士認証式で王より直々に下賜される祝福された装備のうち
Blessed Heavy Plate ArmorBlessed Heavy Large Shield
そしてアーティファクトである長剣
Blessed Silver Long Sword "Exhidalibur"
家で父の無事を祈り帰りを待つ息子に託し

胴鎧は限界まで軽量に仕立てた銀のチェインメイル
そしてメインウェポンには 百年戦争時代に暗躍した
王室直轄の諜報院機動影兵団に所属していた頃より愛用し
幾多の死線を共に超えて来たアーティファクト
+10 Blessed Silver Short Sword "Belladonna"
を携えた
地下迷宮特有の狭空間に於ける高速近接戦闘を想定した装備で
狂王討伐隊に参加した老練な高位騎士
(元諜報院機動影兵)

そんな設定です





くっそ!!!
奴だ・・・
!!!!! ENCOUNT !!!!!
"Holy Decomposer"

Holy Decomposer
地下迷宮中層以下階で稀に現れる高位の Rust Monster
迷宮内に生じる影に潜りながら獲物に悟られず接近し捕食する
典型的な Sucker Puncher である

Blessed された聖なる装備は魔族へのダメージ + 補正が大きく
知能を持つ低級のモンスターには忌避効果すら及ぼすのだが
迷宮内で唯一 Holy Decomposer にだけは
Blessed の効果は無に等しい

なぜなら奴等は聖なる装備を専食する Rust Monster なのだから

故に Blessed 装備使用率が高い聖職者やパラディンが
Holy Decomposer の犠牲になるケースが非常に多いのだ
(特に Holy Decomposer の素性を知らないファーストコンタクト時に生き残れる可能性は低い)





今回 背中から足元にかけて通る太い髄の空洞がありつつも
最初は気にせず彫り進めていたのです
しかしいつもなら髄など気にしない至水でさえ
コレはちょっとなぁ・・・(汗)
となってしまうくらいの状況に陥りましたので
大きく開口させ大紐穴にする方向に切り替えました





その大紐穴に嵌めるのがコレ Shield パーツ

地下迷宮の30階辺りで出くわしたコボルド傭兵団を殲滅した際に
ボスである Kobold Leader "カベッサ・ピロフィオ" から鹵獲した革盾
+8 Leather Shield of Protection "Juggernaut"

ジャガーノート の 前頭部の皮を素材として
ダークエルフのシールドマイスターによって仕立て鍛えられた
AC+5 対石化+3 対火焔+1 加速+1 の補正が入るという
小革盾としては破格の逸品であった





そんな Shield パーツに紐を通し
結び玉ごと大紐穴にINする仕様になっております





サイズはこんな
頭の先から右足爪先まで対角の最長部で見れば大き目・・・か
でも正位置にすればそこそこ良いサイズ・・だと・・・思ひます





製作着手したのが昨年末で完成したのが今年入ってからの二月中旬すぎ
色々ありました二か月間の全てをご覧ください(涙)





聖職者の放つ祝福の芳香に群がる聖蝕者
根付「聖蝕」完成です

因みにこの後彼がどうなったかと言うと

実は +10 Blessed Silver Short Sword "Belladonna" は
"識別" で明らかになる補正値 Resist Negative +3 と
更に "Speed" と "Venom" のエゴが付加されているという
魔族にもリビングモンスターにも効果的なダメージを与え得る
アーティファクトでありまして

Holy Decomposer はリビングモンスターカテゴリに属し
毒耐性はマイナスというモンスター

当然触手が刃に触れた時点で被毒判定に入りますが
"Belladonna" の強化値+10 と
近接戦闘で MAX まで鍛え上げられた小剣スキルが乗算されるので
この命中率補正が大幅に UP した被毒判定を
Agility 低めな Holy Decomposer が避けられる訳ありません

更に Speed エゴによる1ターンに ×3 の攻撃判定追加となれば
Holy Decomposer の即死確定!

肘のダメージは50ターンもすれば回復しちゃうし

ゲームマスターのダイス振る気も萎えたのでした・・・

なんてメタな妄想ストーリーが続きます



ほぼ二か月の間 色々と足掻きまくり
難産この上ない高位騎士根付だったのですが

妄想だけは相も変わらず楽しくて

今回の高位騎士根付も
"FREESTYLE NETSUKE DUNGEON ユニバース" の1ピースですから

そういう見立てで言うと

人族聖根付騎士八年目
a.k.a
LV8 Human Netsuke Paladin

である

とか

王から下賜された長剣 "Exhidalibur" 
"エクスカリバー" じゃなくて "エクスヒダリバー"
そうです
"エクス左刃ァー"
・・・とかね
ダジャレかよ!



他にもファンタジー RPG な a.k.a 根付案は色々とあるので
"FREESTYLE NETSUKE DUNGEON" に於ける「この世界の片隅に」的な
スピンオフショートストーリーを根付化しましょう!

・・・と

それはまた先の先のお話で

一先ず至水の
"FREESTYLE NETSUKE DUNGEON"
これにて一旦終了となります

これで2017年のけじめは着けたかな