2025/09/28

根付 其ノ弐佰

『 傷猫 』
素材:鹿角、黒檀、ピンクアイボリー



2025年も もうあっという間に9月終盤
本格的介護生活に突入し1年半経ちますが
今年のどんど焼き行ったの先週だっけ?
くらいの感覚で時間は高速で進んでます
急速に老いていくわー

さて10月を目前に
いよいよハロウィンの足音が迫って来たので
昨年制作したハロウィンもの
ニャロウィンもの根付
ブログ未掲載の奴をUPします





至水妄想奇譚

「スカーフェイス フトシ」


2024年の秋も深まる10月末日
今年も古の奇祭ニャロウィンが幕を開け
夕方5時を回れば辺りは既に薄暗く
仮装した猫又たちが町中を闊歩し始めた

普段は積極的に人間に係る事などない猫又だが
この日ばかりは別である
徒党を組み人家を訪れては
玄関先で声を合わせ
「 Slash or Sanma!」
( 爪傷かサンマか!)
とテンション高く恫喝し
やれやれ今年もかと諦め顔の人間どもに
秋の味覚であるサンマを差し出させるのだ

根付彫刻家 至水が住む函館も例外では無く
各家ではサンマをしこたま買い込みニャロウィンに備えていた

月が見え始めた暗がりのニャロウィン真最中に
三角公園の横を流れる新川の土手沿いの道を
とぼとぼと一匹で歩く猫又がいた

彼の名は「フトシ」
地域猫時代に縄張り争いを繰り広げ刻まれた顔面の傷と
大柄で逞しい体躯が殊更に威圧感を増幅させる転生型の猫又である

この見てくれで仮装なんざ…
と硬派なフトシはニャロウィンへの参戦に消極的
しかし特に何も仮装せずとも
額を横断する大きな傷跡が
既に「フランケンシュタインの怪物」の仮装と言えるではないか
そう旧知の仲の猫又に唆され
猫又生で初めてのニャロウィン参戦を決意
柄でもなく心躍らすフトシであったが
1時間程前から数軒の人家にアタックしているにもかかわらず
未だにサンマを一匹も奪取していない

それもその筈
「 Slash or Sanma!」の発声が照れ臭く
玄関先でもじもじする猫又の気配にドアを開けた人間は
緊張のあまり情緒おかしくなり目つきの怪しさが倍増したフトシの眼力と
歴戦のスカーフェイスが発する威圧感に
ヒッと短く悲鳴を詰まらせ
瞬時にドアを固く閉ざしてしまうのだった

だから俺にはニャロウィンなんて… と不貞腐れながら
三角公園の近く
新川に架かる白滝橋を渡ると閉店間際の廉売の明かりが見えた

ここでフトシは閃いてしまう
函館市中島町にある中島廉売には
幾つもの精肉店や惣菜屋の他に
海産物屋や鮮魚店がずらり軒を並べている
市場的な売り場の廉売ならばドアを閉ざされる事もないし
鮮魚店には勿論サンマもあるだろう
いっそのこと最大級の眼力で場を制圧し
抗う間も与えずサンマを献上させてやろう

我ながら秀逸なサンマ奪取戦略を実行すべく
鼻息荒く辿り着いた廉売の前で
道端に転げたハロウィン用の飾りカボチャに蹴躓き気勢をそがれるも
ジャックオーランタン面にくり抜かれたカボチャの顔が
どうせサンマは奪取できないよ とせせら笑う
ように見えたフトシは良く見とけと
飾りカボチャにアカンベェを食らわせ全力で彼方へと蹴り飛ばした

すると閉店作業中であろう鮮魚店から
若い女性店主が声を掛けてきた

「そっか今日ってニャロウィンだっけ」
「しっかし魚屋に直接来ちゃう猫又なんて初めてよ」

予想外の展開に先手を取られ動揺し
振り向きざま反射的に「す、すらっしゅ…」と言いかけたその時
キャハハハと満面の笑みを見せる女性店主に

「ちょっと何⁉ 超ギャップ萌えなんだけど」
「サンマは売り切れちゃったけど」
「お兄さんガタイも良いしホラ」
「この太刀魚持ってけばいいっしょ」

とギラギラと銀鱗を光らせる太刀魚を手渡され
何が何やらで混乱するもとにかく魚を初奪取成功
フトシのニャロウィンが幕を閉じた

唯一の戦果である太刀魚を握りしめ
意気揚々と根城へ向かい歩いていると
廉売の前で全力で蹴り飛ばした飾りカボチャが
道のど真ん中でこちらを向いて転がっているのを見つけた

その瞬間フトシは飾りカボチャにアカンベェを食らわせてから
ずっと舌をしまい忘れている事に気付き
ジャックオーランタン面にくり抜かれたカボチャの顔を見ると
やれば出来るじゃん
と太刀魚を手に誇らしげなフトシを称えているようで
未だにしまい忘れているアカンベェの舌はそのままに
厳つい顔面でテヘペロしてみせた

飾りカボチャを蹴転がしながら根城へ到着したフトシは
鮮魚店の女性店主の笑顔を思い返しながら
「ギャップ萌えかぁ…」
と呟くと
しまい忘れっぱなしの乾ききった舌で喰らう太刀魚は
何故かサンマの味がした





※作中に記された各名称は実在するものと一切関わりは無く
史実もまた異相な平行世界の物語です





という事でですね
今年のハロウィンもの
ニャロウィンものをやる前にUPしておかなければというフトシのお話
何故ならば今年のニャロウィンものは
フトシと抗争を繰り広げたライバル猫の猫又根付化なので

ではまずフトシを

御覧あれ





六面図





フトシかっけぇ





フトシ舌っ
舌しまい忘れてるって





鹿角の鬆の部分は色濃く染まります
皮目も出来れば残す方向でアウトラインを考えています
この鹿角特有のテクスチャを毛色に見立て…
というそれらしい理屈もつけられますが
ただ単に鹿角のテクスチャが好きだから
だったりもして

そして根底には「鹿角である証明」というのがあって

鹿角の証明

男は誰も皆 無口な兵士





ニャロウィンの戦果である太刀魚と
飾りカボチャ
ジャックオーランタン面の口の形状は
フトシの額の傷と対を成しているのよ





大きな鬆の空洞に銘を彫ったブロックを嵌め





だからフトシ舌っ
ずっと舌しまい忘れてるってば

舌はピンクアイボリーで制作象嵌してます





逞しいバックショット
紐穴は水平二連で
2.5mmのアジアンコードがぴったり通る仕様





サイズはこんな感じ





しまい忘れた舌はアカンベェかテヘペロか…
根付「傷猫」完成です

今年も10月末日にはサンマを大量に買い込み
ニャロウィンに備えねばなりません

「Slash or Sanma!」