2022/12/16

根付 其ノ佰漆拾伍

『 ぬっぽり坊主 』
素材:鹿角、黒水牛角



今年も残り僅かです
来年の干支もの「兎」を彫らねばならぬこの時期にですね
通算五体目の尻目…否「ぬっぽり坊主」を彫ってしまった訳ですが
これはもうしようがない
好きなんですものシリメ…
今回は「ぬっぽり坊主」なのです



至水妄想奇譚

「ワンナイト パンデミック イン ヨシワラ」

真昼間っから吉原遊廓に入り浸る奴なんてぇのは
大店の倅と相場は決まっている

今日も今日とて遊女屋「みしまや」の大部屋には
ろくでもない道楽若旦那が十人ばかり
割床の上で贔屓の遊女がやってくるのを待ちわびていた

煙管をふかし酌しておくれよとせがむ客を尻目に

あたしゃ乾く暇なしの人気もんでねぇ
ごめんなさいな

と、一仕事終えた遊女 ねね
地団駄踏む客に笑顔一つくれてやり
屏風一枚隔てた隣の床で待つ廻しの客の元へと向かう

はいお待たせ 若 旦 那 ♥

挨拶もそこそこに枕元へ座った ねね
科を作り酌をしようと銚子を持った刹那
割床が並ぶ十六畳の大部屋に
ねね を姉と慕う遊女 さよ の悲鳴が響いた

いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁっ

何事かと ねね屏風の端からそぉっと顔を出すと
四っつ向こうの屏風の端から
同じくすぅっと顔を出したのは男の尻

尻はゆっくりとこちらを向き目が合った

あそこは さよ にエラく御執心な越湖屋の馬鹿息子が入った床じゃないか
あいつ さよ に一体なにしてくれてん
え?

尻と?… 目が?…合った?…

こちらを向いた越湖屋の馬鹿息子の尻に見開いた尻穴から
ぬっぽりとせり出した金色に光る大きな目が ねね を見つめていたのだ

なんなんだい…

異様な光景に声を詰まらす ねね の背後で不意にぬぽっと音がした
振り向くと床の上で盃を持ち酌を待ちわびていた筈の客が
尻を上にしてでんぐり返った格好でわなわなと震え呻いている

ちょ…ちょっと旦那…すっ裸でなにふざけた格好…

声をかけ顔を見ると
目鼻口のあるべき所はぼんやりと窪んだのっぺらぼうで
ぬぽぬぽと音を立て徐々に広がる尻穴の奥からせり出した
金色に光る大きな目が忙しなく辺りを見回している

いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁっ

顔を引き攣らせ取り乱す ねね の悲鳴が響くなか
大部屋割床にいた他の客達も同様に尻穴の目を光らせながら
障子窓を打ち破り次々と外へ飛び出した

ねね姉… 越湖屋の若旦那が目ん玉の化物になっちまって…

駆け寄ってきた さよ が涙ぐみ震えながら ねね の手を握る 

障子窓を破られた遊女屋の二階から恐る恐る外の通りを見下ろす遊女達
店の前では尻穴に金色の目を光らせ四つん這いで蠢くのっぺらぼうと
刺股や棒っ切れを手にした妓夫達の大立ち回りが繰り広げられていた

時同じくして同様の騒ぎが吉原中の遊女屋で起きており
遊廓の大門は即刻閉ざされ化物退治に丸一日が費やされた

化物とはいえ元は大店の倅だった奴が大半で
手荒な真似はしたくはないが
生け捕ろうと持ち出した桶伏せに使う大桶も数が足りず
止む無く打ち殺された化物も数多く
語る事すら憚られる吉原遊廓始まって以来の大惨事となった

跡取りを失った大店は世間体を気にするあまり口をつぐんだが
やれ遊女の祟りだの
楊梅瘡の類の流行病が人を化物に変えただのと
あっという間に広まった一夜限りの化物騒動の噂も
江戸っ子の助平心逞しく三日も経てばどこ吹く風と
吉原遊廓は昼夜を問わずいつも通りの活気を取り戻していった

さて桶伏せに捕えられた化物達は後にどうなったのか
口にする者は誰もいなかったが
江戸中の桶屋がしばし繁盛したと聞く
確かに吉原遊廓中の遊女屋の裏には
裏っ返し重石をされた大きな桶が幾つも並んでいる
あの日以来姿を消したろくでもない若旦那達は
おそらく今でも桶伏せの中
尻穴の目を光らせているのだろう






※作中に記された各名称は実在するものと一切関わりは無く
史実もまた異相な平行世界の物語です



という事で

これまで製作しました尻目は
一作目の妖怪「尻目」
二作目の「妖獣 シリメ」※ブログ未掲載
三作目の「霊獣 耆驪目」※ブログ未掲載
と「人が神に成る」を描いた三部作
そしてスピンオフの四作目「幼獣 尻目」※ブログ未掲載
の四作連なる尻目サーガを綴ってきたのですが

ここでリブート

新たなる「ぬっぽりサーガ」が始まってしまったのでした

ではぬっぽりと彫ってみようではないですか





六面図





ぬぽぬぽぬぽっと尻穴からせり出した金色に光る大きな目に
ねね絶叫





のっぺらぼうに変容していく途中
苦悶の表情残す顔です





玉袋のディテールは必須ですね





ぬっぽりトランス中の若旦那
骨格とかどうとかはもう関係なくなっちゃってますね





このアングルはえぐい…





ろくでもねぇ若旦那達はのっぺらぼうで桶伏せの中…





最初に製作したぬっぽり脱眼パーツはこんな感じだったのだけれど
ちょーっと違うかなーと一日使ってもう一個作り直し
コレよコレコレーとお気に入り
作り直して良かったねと
でもまぁこう改めて画像で見るとこれはこれでありかもだけど…





今回の紐通し
ぬっぽり脱眼パーツに紐通してぬぽっと本体に嵌める仕様
1.5㎜の柔らかい人七紐を使ったので
最後に一回結んで紐穴出口を埋めるようにきゅっと固定します
印籠のような小さめの提げ物と併せる根付です





サイズはこんな感じ
根付袋画像は端折りましたがシンプル黒べっちんです





大店の 道楽息子も 成れの果て
根付「ぬっぽり坊主」完成です

作り直しで手元に残ったぬっぽり脱眼パーツがもったいないので
とりあえずもう一体くらいはぬっぽり根付化するつもり

いやーホント好きだよねーシリメ
ぬっぽり坊主ね


0 件のコメント: