2022/03/03

根付 其ノ佰陸拾参

『 神明あんこう 』
素材:鹿角、黒水牛角



コロナ禍、戦争、震災、温暖化
そして自らを蝕む避けようのない老い

毎日しんどいなぁ
しんどい
しんどいよね?

それでも根付を彫るのです
妄想に生きろ
なのです





至水妄想奇譚

「神食ミノ神」

生まれてこの方いっぺんたりとも
お詣りなんてした事のない男が
朝晩欠かさず近所のお稲荷さんの鳥居を潜り
当たりますよーに当たりますよーに
と二礼二拍手一礼し続け七日間

有り金はたいて初めて買った富くじが当たった

三番富二十両なんてそうそう当たるもんじゃねぇ
これがお稲荷様の御利益ってぇやつか
いやてえしたもんだ

邪な信心が芽生えた男は閃いた

今大流行りのお伊勢参りってぇの?
あそこの神さんはそこいらの神さんと違って
神さんの親分さんなんだろ?
お詣りしたら一番富千両…
絶対ぇ当たるに違えねぇ

男は妄信に突き動かされるまま早速仕事を放りだし
旅支度を整えると伊勢神宮へ向かった

江戸を発ち三日目
箱根の関所へ向かう道から外れた高台の上
鬱蒼と茂る林のなかに建つ古びた鳥居に気付いた男は
道中の無事を祈願するため立ち寄る事にした

鳥居へと続く石積の階段を上ると
周りの木々に陽の光を遮られてか
参道の先は真っ暗で御社殿すら見えないが
境内の奥にぼんやりと提灯の明かりが揺れていた

何だい誰か先客が来てるじゃねぇか
よぉしついでだ
何処の神さんか存じませんが
どーかひとつ
一番富が当たりますよーに
こちらでも御願いさせてもらいますよっと…

と、懐の富札に手を伸ばし
暗がりのなか参道を進むと男の額にねとりと何かの雫が落ちた

雨かい?

林の天井見上げた刹那足元の石畳がぐらりと波打ち
ごくりと喉を鳴らす音がした



………………………………………



嗚呼…
今日も外れを食っちまった…

日ノ本にはよぉ
昔っから沢山の神さんがいてなぁ

儂は確か…
何か…
魚か何かの神さんだったか

いつからか眉間で繋がった瞼毛の形がな
天照さんとこの鳥居みたいになってきてよ
大口開けて寝てたら神明鳥居と間違って挨拶に来た何処かの野良神さんが
口ん中飛び込んで来たもんで
思わず呑み込んでしまってなぁ

これがぁ

まぁぁ

美味くてなぁぁぁ

甘くて旨くて…

そっからもうずぅーっと
こうして口開けて待っててよぉ

でも大概入って来るのは人間でなぁ
信心のないヤツほど固いわ臭いわで不味いのなんの

顔に鳥居の神さんは
富札を握りしめた男の手首をぺっと吐き出し
溜め息をついた

はぁぁぁぁぁ

野良神さんを食いてぇなぁ





はい

短めですよ

ですよね?

果たして神が神を食すのは何バリズムと言うのだろう
そんな根付です彫りますよ

彫り始めの画像無く
六面図





巨顔!
誘引突起として機能する鳥居が
鮟鱇の神さんだったのかなという名残的な
(神さん本人の記憶も曖昧なのでアレですが)





鳥居を押し当てられブニョった唇が
大注連縄に見えなくもなく





階段上った暗がりの先
参道の奥に見える提灯の明かりは紐穴
鮟鱇で言うところの
擬餌状体内の発光器な訳です





今回のお気に入りな後ろ姿
プ二モニュネチッ感
そんな感じ





紐穴は潔くお口からどーん
結玉はごくりと呑み込まれます





根付袋は蔦の絡まる林かな





サイズはこんなで





野良神さん…食べたいな
根付「神明あんこう」完成です



実は鳥居が明神鳥居型の
明神あんこう
で考えて居たのだけれど
(明神と提灯で韻を踏んでるし)
明神鳥居の笠木の先とか鋭角で手に当たりそうだし
もっともっと古い時代から在る野良神さんにしたかったので
神明鳥居にしてみたのでした



なにか色々としんどい社会情勢なれど
妄想の世界でリフレッシュ
皆生き抜こう



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